【終業式】サンタは通知表泥棒？｜リアクション

【終業式】サンタは通知表泥棒？

　長かった校長の話もようやく終わりました。
（やっと終わったか。次はスピーチだが、どうせ俺には関係ない……）　
「ふあー」
　雅樹は、気が緩んだのか思い切りあくびをしてしまいました。
　そこへいきなりマイクが突き出されました。
「先輩、何か一言お願いします！」
　とか言われてしまい。
「ファッ？」
　寝子高の終業式の生徒によるスピーチは恒例イベントでした。
　マイクがが渡され、２学期に達成できたこと、思い出、冬休みや３学期への抱負などを語ることになっていますが。
（何を話せばいいんだ？　参ったなあ、俺はアドリブとか苦手なんだ）
　あたふたしながら結局、脳内で数瞬考えて、
「あー、今年はそれなりにそこそこ行けたんじゃないかと思います。来年の抱負は……とりあえず間近に迫った入試頑張ります、以上」
　炭酸の抜けたサイダーのようなやる気のないスピーチでごまかしたのでした。
「ありがとうございました」
　冷や汗をかきながら雅樹は、元カノの椎井莉鳥のことを思いました。
（……あいつ、今の聞いてどう思ったろうな）
　腐れ縁とはいえもう終わった関係のはずなのに、そんなことが気になってしまうのでした。

　そんなスピーチを聞きながら、森篠琳子は考えていました。
（進学するみんなは、これから勝負をかけられるんだ）
　琳子は寝子島信用金庫への就職が内定していました。
　母子家庭で、母や妹に経済的負担はかけられないと、悩んだ末に決めた進路。
　それでも、心の中でモヤモヤ感がなかなか消えなかったのでした。

　校長先生以外の声が聞こえた気がして、うとうとしていた稀跡は目を覚ましました。
（……生徒によるスピーチ、ね）
　中には手を上げる猛者もいるようですが、稀跡は聞くのに専念することにしました。
（私は……何かを語れと言われれば猫や石の事になりそうだし。皆が寝子高や寝子島で穏やかに過ごせたらいい、とは思うけれど）
　それは発表するのではなく、自分の中で思っていればいい、と稀跡は思うのです。

（まさか指名されないよね？）
　羽生碧南は、何か悪い予感がして身をすくめていました。
　身長180cmの長身は、バスケットボールの時は最強の武器なのですが。
　こういう目立ちたくない時には恨めしい個性です。
（気持ちを切り替えよう。年末年始には新しい乙女ゲームが……）
　新作のゲームのキャラを思い浮かべた時。
「何か一言お願いします！」
　予感的中。
　突然差し出されたマイクに、碧南は固まったのでした。　

　1年生の楡宮遠海は、校長先生の長ったらしい演説（？）を、船漕ぎながら聞き流していました。
　ようやく終わって値を覚ました時。
「何か一言お願いします！」　
　スピーチのマイクを向けられ、きょとん、としました。
　しかし遠海は慌てませんでした。
「それでは、歌います」
　学食の常連なら、謎の大食いスレンダー美少女、として印象付けられているでしょうが、実は遠海は軽音部所属。
　好きなアーティストの歌を堂々と歌い、居眠りしていた生徒たちを目覚めさせたのでした。
　歌い切った後は拍手喝采が起こりました。
　拍手が収まったとき、理事長の桜栄あずさが立ち上がりました。
「いいわね、あなた。校歌斉唱のリードヴォーカルをやってちょうだい」
「えっ？」
　……なんでこんなことに。
　そう思いつつも引き受けてしまい。
「寝子島高等学校校歌、斉唱」
　津止孝道先生の指揮で歌い始めます。
「♪　陽光そそぐ学び舎に　我らを育む寝子ヶ浜の風……」
　見事に歌いきる遠海でした。

（今年は生徒がリードするんですね。眠気が消えました）　
　時子はすっきり目を覚まし、無事終業式は終わったのでした。　