そうだ、下着を買おう！｜リアクション

そうだ、下着を買おう！

【下着のあとは、やっぱりコーヒー】

　ステッラ・デッラ・コリーナのカフェで、後木真央と北原みゆき、逆巻天野と八神修の四名は、ゆったりお茶を楽しんでいた。
　歓談しつつも、修は参考書を開いて勉強もこなしている。
「修くん、努力家……」
　みゆきが感心するが、修にとっては日常のことだ。
「星ヶ丘は……、飲み物もお高い……」
　少しは落ち着いてきたらしい真央も、メニューを見たときには再びショックを受けていた。

　しばらくすると、【ａｔｔｉｔｕｄｅ～ｐｅｔｉｔ～】の店員がデッサンを抱えてカフェに現れた。
「お待たせ致しました。デザインはこちらでご覧になりますか？」
「はい」
　修は出来上がったデザインを手早くチェックし、シルエットがスリムになるよう、いくつか修正を頼んだ。
「完成したら配達してください」
「かしこまりました」
　用を終えた店員が立ち去ると、みゆきがあっけにとられた顔で修に訊いた。
「修くん……、いったい何枚頼んだの……？」
　デッサンが、束になっていたのだ。
「ん？　３０枚だったかな」
「なっ、なんでそんなに注文したのだ！？」
　修はなぜ皆がそんなに驚いた顔をしているのかわからなかった。
「いや、だって一ヶ月でなくなってしまうじゃないか」
　地を這うような声で天野がうなった。
「……使い捨て……か！」
「うん？　普通だろう？」
　首を傾げる修に向ける、周囲の眼差しが痛い。
　天野は咳払いをして、気を取り直した。
「そういえば、僕はこのへんに詳しくなくてね。近くにおすすめの洋服を扱っている店はないかな」
「真央ちゃん、星ヶ丘はちょっと……」
「うーん、私も男の子の服はわからないかなぁ」
「八神は？」
「洋服は、自宅にテーラーが採寸に来るものだろう？」
　がっくりと天野はうなだれて、「つかえない……」と、つぶやいた。

【ひっそりとお買い物】

　白浜渚の胸は大きい。
　学校の自分の席に着席していても、机の上にたわわな乳房が乗ってしまうし、
うつぶせで寝ようと思っても邪魔だし、肩も凝るし……。
　気軽に下着を買おうと思っても、ぴったりのサイズなんて売ってはいない。
　胸の大きい子は大変なのだ。

　下着の買い換え時だとふんだ渚は、人波をすり抜けるようにこっそりと来店した。
　うつむきがちな前髪の下から、眼鏡のレンズがちらりとのぞく。
　渚はかなりの人見知りだ。注目を浴びるのは恥ずかしい。
　人付き合いも得意ではないし、初対面の人となど、どう接してよいのかもわからない。
　それでも下着の購入という目的がはっきりしている場合は、話す内容も明確なぶんまだマシだ。
　なるべく親切そうな店員に、声をかけてサイズを計ってもらうことにした。
「体型に合うものを作っていただきたいのです」
「おまかせください。着け心地の良いものを一緒に考えてまいりましょう」
　なんとも頼もしい言葉だ。
「お願いいたします」
　計測室で服を脱ぐと、脅威の１メートル超えの乳房があらわになった。
　もはや、巨乳という言葉ではあらわしきれないほどの迫力だ。
　体への負担を軽減するためにも、下着には底力を発揮してもらわなくてはならないだろう。
「１２６……」
　店員がシートに数値を記載していく。
　渚の腰はほどよくくびれ、お尻もどちらかといえば引き締まっているほうなのだが、胸だけは並外れたボリュームをほこっている。
「全体でしっかりと支えてあげる形のものを選ばれたほうが良さそうですね」
「はい……」
　形に合ったカップをいくつか試した後、カウンターへ移動した。
「この素材にいたします。肌への負担が少なそうなので、気に入りました」
　普段身につける下着は、すぐに決まった。
　長時間肌に触れているものなのだから、質素でも肌に優しい素材を選ぶ。
「あと、もうひとついただきたいのですが……、どうしましょう」
　少し遊び心のある下着も欲しいと思った。
　渚は素材や柄のサンプルを何度も手に取り、悩みに悩んだ。
「高級感があって、お似合いになると思いますよ」
　そんな店員の一声におされて、見栄えを優先した下着を注文することにした。
「では、この黒い下着も一緒にお願いいたします」
　華やかな、セクシー路線の黒い下着だ。
　自分がこんなに派手な下着を身につけているところは想像しづらかったが、素敵な品だ。
「自宅に宅配をお願いしたいのですが、よろしいでしょうか？」
「かしこまりました。では、こちらに連絡先をお願いいたします」
　完成するのが、楽しみだった。

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