そうだ、下着を買おう！｜リアクション

そうだ、下着を買おう！

【気になるあのお店に行こうかな】

「明日オープン……かぁ」
　北原みゆきは、手元のちらしを眺めながら、つぶやいた。
　みゆきももう高校生だ。
　下着くらい、自分で選んだものを身につけてもいいはず。
「割引もあるみたいだし、思い切って買ってみようかな」
（けど、どんなデザインを選べばいいんだろう？）
　子供っぽくみられるのは嫌だけど、あまりに大人っぽいデザインのものは恥ずかしくて着られないと思う。
「少し調べてみようかな」
　みゆきはインターネットで資料を集め、明日にそなえることにした。

　一夜明けて、【ａｔｔｉｔｕｄｅ～ｐｅｔｉｔ～】のオープン当日。
　詠坂紫蓮もちらしに目を通しながら、店に足を運んでみようと考えていた。
（なんだか惹かれるものがあるのよね）
　考えてみると、プール開きも間近なのだ。
　更衣室で着替えるときに、子供っぽい下着を身につけているのも恥ずかしい。
（高校生になったんだもの。少しくらい背伸びしてみてもいいかなぁ）
　ついこの間まで中学生だったことを思えば、あまり大人っぽい下着は身の丈に合わないと思うが、いつまでも親の用意したものばかりというわけにもいかないはずだ。
（ちょっと心細い気もするけど……、経験しておくべきよね）
　これは試練だ。
　乗り越えるべき壁。飛び越えるべきハードル。
　大人の階段を一歩だけ上って、新たな世界を切り開くのだ。
（一緒に行けたら良かったんだけど……）
　友人の顔が頭をよぎる。
　一人で行くのは、己を鼓舞してみても心細い。
　頼りになる友人がいれば……と、考えてしまうが、あいにく今日は用事があるのだとか。
　紫蓮は一人でこの試練を乗り越えるしかない。

「あっ、あの、八十八旗くん」
　上穗木千鶴は、緊張しながら八十八旗信彦を呼び止めた。
　放課後の、学校でのことである。
「ん？　どうしたんだい。かわいい声で俺の名前を呼んでくれるのは誰かと思えば、ちーちゃんじゃないか」
「実はだね、そのぅ……」
　千鶴はぎゅっと拳を握りしめた。
　今から彼を、デートに誘うのだ。
　恥ずかしいし、緊張だってしてしまう。
　前髪の向こうの、信彦の顔も直視できない。
「この間、八十八旗くんにもらったもののことなんだが、少し興味が出てきてね」
「ああ！　気に入ってくれたのかな、嬉しいね。あれは俺の真心みたいなものだよ」
　思わぬプレゼントをされたことで、千鶴は新しい下着が欲しいと思ったのだ。
　それでも、一人で行くのは恥ずかしい。
　だったらデートをかねて、千鶴の体のサイズを熟知している信彦に、ついてきてもらおうと考えた。
　彼と一緒に、過ごしたかったのだ。
「それで、今から下着を買いに行こうと思うんだ。よかったら、付き合ってもらえないだろうか！」
　勇気をふりしぼって、千鶴は誘った。
　信彦の返事は、いたって気軽なものだ。
「おっけーおっけー！　ちーちゃんのお役に立てるなら、よろこんでー！」

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