●星幽塔～BARアストラルのクリスマス


　寝子島と星幽塔の行き来が出来るようになってから、星幽塔では時折、寝子島文化が流入するようになった。
　もともといろいろな世界の坩堝であったため、異文化を受け入れやすい土壌があるのだろう。
　そんなわけで第一階層Ｂａｒアストラルもクリスマスである！
　パーティである！
　日ごろからＢａｒアストラルでお手伝いをしているリリエル・エーテライトは、マスターと一緒に寝子島の風習でお客様をお迎えするべく準備に勤しんでいた。
　どうやら寝子島では、クリスマスの日にはクリスマスツリーという木にオーナメントという飾りを付けたものを窓際に置いたり、七面鳥の料理で楽しんだり、シャンパンという泡立つ飲み物を飲んだりするらしい。同じものは手に入らなかったのでレインボーベリーの木を代りに飾り（飾りつけ不要だ！）、幸運を呼ぶと言われる黄色い尾の長い鳥“シャウラ・バード”と、それに似た方向音痴の鳥“マイゴラ・バード”の丸焼きを作り、第五階層の騎士団特製ドリンクも取り寄せた。
「お料理よし！　飾りつけよし！　交換するプレゼントよし！　準備はバッチリですね♪」
　早速お客さんがやってくる。
「おー、『くりすますぱあてい』とやらはここかー？」
「勇者の心得その８９、パーティと聞いたら参加すべし！」
　お人好しのキツネ盗賊のフォルカ・ヴィクスンと旅する少年剣士ルーク・ポーラスターだ。
「あ、フォルカ、ルーク、いらっしゃいなのです！」
　ふたりをテーブルに案内すると、また扉口が開く。
「何やら面白い催しをしていると聞いたのですが？」
　姿を現したのは、第一階層の領主でもある少女フランチェスカ・ダ・サジタリオだ。
「わわ！　領主さままで！」
「そう畏まらずフランチェスカで良いですよ。寝子島の行事とすると聞いて、役目を忘れて楽しみたいと思って来たのです。プレゼント交換なるものもあると聞きました。ちゃんと用意してきましたよ」
「そうなんですね！　どうぞどうぞ！　プレゼントはそちらのテーブルに置いてください。あとでシャッフルして配りますから」
　こんな具合に、Ｂａｒアストラルのクリスマスパーティは次から次へのお客さんが来て大盛況。
　すっかりにぎやかになったころ、リリエルにとって大切な友人で虎の子のメリィ・ランページだ。
「あ、メリィちゃんいらっしゃい！」
「リリエル！！　『メリークリスマス』！！　挨拶ってこれで合ってる？」
「合っています！　メリークリスマスです♪」
　手を取り合ってくるくる回って喜び合う。
　それからリリエルはカウンターのマスターのところに駆け寄って言った。
「マスター、準備ができたので私もパーティー楽しんできますね！」
「はいよ。ご苦労さん。……お、ちょっと待った。これサービス。友だちと飲みな」
「わぁ！　金剛オレンジの第二階層温泉ソーダ割りですね！」
「ありがとうマスター！」
　リリエルとメリィはマスターから受け取ったオレンジ色のグラスを早速鳴らす。


「それじゃメリィちゃん乾杯しましょう♪　かんぱーい！」
「リリエル大好き！　かんぱーい！」

　ごっきゅごっきゅと飲み干せば、次に目を輝かせるべきはテーブルに並ぶ煌びやかな料理たち。
「うっわ～～！　どれも美味しそうっ！」
　メリィは琥珀と黒の虎の耳をぴんぴんっと動かして聞く。
「腕によりをかけてお料理を準備したのでいっぱい食べましょう♪」
「これ全部リリエルが作ったの！？」
「そうですよ。マスターとかほかのスタッフとも協力しましたけどね」
「すっごい！　目移りしちゃうなー！」
「だったら絶対シャウラバードの丸焼き食べてみた方がいいですよ。縁起もいいですし、捕まえるのも大変でしたから一羽分しかないんです。早い者勝ちですよ」
「よぉし、そこまでオススメされるならそれから行こう！」


「うっま～～～！！」

　クリスマスがなんなのかよく知らぬまま――まさか地球の超有名な聖人の誕生日だなんて知る由もなく――、ご馳走とパーティを楽しむほしびとたち。
「寝子島の風習も楽しいねえ」
「そうですね♪　ご馳走を楽しんだ後は最後はプレゼント交換タイムだそうです。みなさんに持ってきていただいたプレゼントを袋に入れてシャッフルして……ではみなさん、私がこれからテーブルを回りますから、ひとりひとつずつ取ってくださいね♪」
　サンタの袋に似た大きな白い袋を持って回るリリエル。
　サンタクロースのことは上手く伝わっていないようだが、楽しければ結果オーライだ！
「ん？　なんだこれ？　マッスルバニラビーンズ（超レアスケキヨの姿）……そこらで摘んできただろこれ！　この金掛かってなさはフォルカだな！？」
「『勇者の心得全集』……これはルークでしょうか。なかなか役に立ちそうですね」
「『領主の汚部屋お掃除券』……フランチェスカ様……お掃除はご自身で……」
　自分のところに来たプレゼントを見てわいわい言い合うお客さんたち。
　メリィが取って、最後に残ったプレゼントをリリエルが取る。
「メリィちゃん、お互い何が当たったか見せあいっこしましょう♪」
「いいよ！　じゃあせーので」
「せーの！」
　ふたりはいっしょにプレゼントを見せ合う。お互いにぬいぐるみだ。
「メリィちゃんのは……あ、それ私のプレゼントですね！」
「リリエルのはあたしのだー！」
「えへへ、偶然だけどお互いでプレゼント交換になりましたね♪」
　メリィの手に渡ったのはネコのぬいぐるみ。
　リリエルの手に渡ったのは仔トラのぬいぐるみ。
「メリィちゃんのプレゼント大事にします！　ネコちゃんも可愛がってあげてくださいね！」
「もちろん！　リリエルもあたしだと思って可愛がってよね！」
「そうしますとも！」
　ぎゅーっとぬいぐるみを抱きしめれば、そろそろお開きの時間である。
「あ、もうこんな時間ですね、楽しい時間はあっというまにすぎてしまいますね……」
「寂しい～もっと一緒にいたい！」
「でももういくつ寝たらお正月です！　メリィちゃん、初詣一緒にいきましょうね♪」
「うんっ！」
　すっかり寝子島の風習が気に入ったリリエルとメリィである。
　二人の友情はまだまだ続くことだろう。