【クリスマス】あなたに会いたい、雪降る聖夜｜リアクション

【クリスマス】あなたに会いたい、雪降る聖夜

●九夜山～花遊さんといっしょ

　
　寝子島神社の北にある登山道入り口駅からロープウェイに乗って二駅、終着点である展望台前駅で降りると、寝子島島内を眼下に収めることができる九夜山展望台までは歩いてすぐだ。
　旧市街住まいの万条幸次は、イブの夜の三夜湖でも散歩しようと、飼い猫の花遊といっしょにロープウェイに乗って展望台へとやってきた。
　あたりはカップルだらけなので、男一人（＋猫一匹）はちょっと目立つ。
「まあ俺にはお前がいるしな花遊！　寂しくないし！」
　なんて湖畔を歩いていた幸次を襲ったのは、神魂の罠！
　気づけば体の様子が変わり、ぼんっきゅっぼんっのナイスバディに変わってしまっているではないか！
「あれ？　何だこれ！？　女体化！？　しかも衣装まで変わるなんて……」
　さっきまでごく普通のコートにジーンズだったはずなのに、巨乳ガールに変じた自分が纏っているのは、胸元が空いた谷間くっきりの真っ赤なサンタコスチューム。そのままなのは、髪を止める赤い二本のピン止めとちょっぴり眠たそうな瞼くらいか。
　これじゃあ、幸次ならぬ、幸子サンタだ。
「ええ～……これって……？」
　わが目を疑いつつ、自分の身となった二つの双丘をコスチュームに空いた穴から触れてみる。
　本物だ。
　むにゅんと弾力があって滑らかで、どうしてこんなところから触れちゃうんだろうという感じだ。
「胸元が空いてるサンタコスチュームって寒いばっかりじゃないかなあ……」
　両手でその部分を押さえて、幸子は頬を赤らめる。
（神魂の影響で性転換は何度かあったけど、あれは学校内だったから大っぴらにならなかった訳で）
　こんなにセクシーで巨乳なサンタさんが歩いていたら、当然注目されるに決まっている。
　カップルさんの中には、彼氏のほうがセクシーサンタさんに目が釘付けになっちゃったせいで、彼女に耳をぎゅっと摘ままれてたり、足をガツンと踏まれたりする人続出である。
（ああ～こんな格好の女の子が歩いてたら見ちゃうよねぇ。男ならしょうがないよねぇ。僕も好きでこんな格好してるわけじゃないんだよぉ、彼女さんごめんねぇ）　
　このままじゃあまずい気がする。
　穴あき巨乳という罪深さが、せっかくクリスマスデートを楽しみに来たカップルを破局させかねない。
　そんなことは本意ではない。
（来て早々もったいないけどもう帰っちゃおう……）
　踵を返したそのとき、花遊がひょいっと胸の穴の中に潜り込んできた。

「ってこら花遊！　む、胸の谷間に入り込むんじゃない！　くすぐったいってばぁ！」

　思わず声が裏返った。
　嬌声に、彼氏さんたちが一斉に振り返った。
　身悶えしながら胸の谷間に手を差し入れて、花遊を掘り起こそうとするも上手く行かない。
「あ……やだ。胸の弾力が凄く、て……！」
　彼氏さんたち、ごくりと生唾を飲み込んでいる。
　その音に、人生でかつてないくらい全身が紅潮する。
（わあああ……こ、これは……物理的にも心理的にもちょっと抵抗がある！　それに、自分で自分の胸を揉んでるみたいで公衆の面前ではあまり良くない！　かと言って放置するわけにも……）
　そんな飼い主の恥じらいを知ってか知らずか、花遊は胸の谷間の中で、なあんと悪戯っぽく鳴いてみせる。
「……もう、この変態にゃんこ！　そりゃあ柔らかいし暖かいだろうけど……んっ」
　おもわずその場にへたり込んでしまう。
「や、だから、ダメだってばぁ……」
　声は甘く、蠱惑的に鼻の奥から響く。
　気づけばあたりには人だかりができていて……。
「見ないでーっ！　これイベントとかじゃないんで！」
　もうこれ以上の恥辱は耐えられない！
　居たたまれなくなった幸次は、大きな胸を揺らして真っ赤な顔のまま駆け去った。
「もう、花遊のばかぁ！　ゆっくり過ごすはずだったのに何でこうなるんだよぉー！！」
　神魂のせいで、とんだクリスマスである。
　巨乳はちょっと……よかったけど。