悲しい銃弾｜リアクション

悲しい銃弾

　見咎められることなく、夜海霧楓は屋上に繋がる扉の前にきた。少し呆れた顔でドアノブを掴んだ。
「……不用心だな」
　ドアノブを回して扉を押し開けた。
　寂しげな屋上に出た。骨組みのような物干し竿を無視して夜の街を見下ろす。光で溢れる目抜き通りを嫌うように薄暗い路地が無秩序に伸びていた。一つを目で追っていくと暗がりで抱き合う若い男女に行き着いた。
　楓は何の反応も示さず、別の道を見やる。僅かに顔を突き出し、目を凝らす。
「黒いが、違うな」
　目頭を揉んだ。
　――薄暗い中で黒いヤツを探すのは難しいな。狙うなら情報にある白いヤツか。
　見える範囲に標的はいなかった。楓は鉄柵の上部を踏み付けて跳んだ。スーツの裾を翻し、隣のビルの屋上にふわりと着地した。
　ざっと目を飛ばし、更に跳躍した。上空から監視の目を光らせた。
　五回目で足が止まる。白いコートの少女を見つけた。特徴のある髪は銀色であった。路地裏を北に向かって歩いていた。
　楓は低い建物に飛び移る。少女を追って密やかな尾行を開始した。