＜天穹＞埋蔵金と【影】との対話｜リアクション

＜天穹＞埋蔵金と【影】との対話

＞第四幕：サキリ・デイジーカッター

　サキリはあたりを見渡し、小さくため息を吐いた。
「ここか……。懐かしいな」
　周りをビルに囲まれた、薄汚れたストリートに一人佇み、少しだけ感傷に浸る。だが、荒事に慣れていたサキリは、僅かな空気の変化に気付いていた。
「あぁ、やっぱり」
　視線の先、いつの間にか懐かしい姿の若者が立っていた。金の髪、青い瞳にニヒルな笑み。嘗てただ一人サキリの居場所になってくれた
無二の友人。そして……、彼は、サキリを庇って銃弾に倒れ、既に亡い。
「ウィクサリオ」
　サキリがその名を口にすると、彼は生前のように親しい笑みを浮かべた。が、サキリはもう身構えている。ウィクサリオが持つ、生前と変わらない眼差し。だが、気配が違う。サキリは僅かに目を細めた。
（凄くそっくりだね。でも、偽物だとわかるよ。彼は……）
　心に刻み込まれた後悔が、どうやら影として出たらしい。そんなことを考えている間に、サキリが動くよりも早く、ウィクサリオは襲い掛かる。その一撃の速さに、サキリは舌を巻く。
「よっ……と」
　大ぶりな一撃を真後ろに避ける。ウィクサリオはそのままどこからともなく取り出したナイフで切り付けるが、サキリも負けじと手にした長剣と斧で応戦する。
　斬り結ぶ度に火花が散り、黒い靄が散る。サキリは斧で豪快に切り付けながらウィクサリオに笑いかけた。
「正直やり辛いさ！　でも……っ！！」
　サキリの一撃が、その身体を切りつける。同時に、ウィクサリオの姿からするり、と彼を模っていた色が消えた。人の形をとった、黒い影の塊。いろんな姿に変えて攻撃してくるシェイプシフターだ。
　正体を明かされたシェイプシフターは、再びウィクサリオの姿をとろうとしつつも身体を伸ばしサキリを何度も切りつける。
「ぐっ！！」
　速い斬撃をさばききれず、その身体が血に染まる。それでも、サキリは止まらない。
「僕は……、先に進むんだ！」
　友の姿を取る魔物相手に、サキリは怯まず、刃を鈍らせず立ち向かう。タンッ、と音を立てて踏み出し、次々に繰り出される閃きを払って。
「だから――ッ！」
サキリが放つ渾身の一撃――赤い一閃がシェイプシフターの首を一気に落とす。と、さらさらと砂のようにその体が崩れ落ちた。だが……首が消えゆくその刹那。確かに、サキリにだけ何かを言った。その言葉が何かは、サキリにしか分からない。だが、サキリは、何か呟き瞳を閉ざした。

　友が死んだ時の事は、忘れたことが無い。その少しずつ体温が消えていく時の事すら。

「ホント、やり辛いね……」
　精神的な疲労も重なり、どっかりと座り込む。自然と汗が噴き出、濡らしていく。彼が落ち着くと、そこはストリートではなく……薄暗い部屋だった。乾いた土の匂いが鼻を掠める。
　水が欲しいな、となんとなく思いながらサキリは疲労で重くなった腰を上げる。それでも歩くのは、埋蔵金で多くの被害者を救済するため。
「行かなくちゃ」
　サキリははっきりと口に出して歩き始めた。