＜零神探訪・後日談＞紅き街にて｜リアクション

＜零神探訪・後日談＞紅き街にて

●紅火楼跡地

　そのころ紅火楼の跡地には、夜海霧楓とサキリ・デイジーカッターの姿があった。
「娼館でなくとも何かしらの再建がされてるもんだと思ったがそれが無いのは先の騒動の所為か」
　楓は拾われ残った瓦礫を蹴る。
　紅火楼という建物はすでに取り壊されてなく、その跡地には粗末な掘っ立て小屋が軒を連ねていた。
　かつて紅火楼で働いていた女たちの仮の棲み処だ。
　ふたりの若者の訪問は、日々の暮らしに疲れた様子の彼女たちにとって嬉しい出来事だったようで、あっという間に噂は広がりかつて紅火楼の前庭だった広場に二十人ばかりが集まってきた。その中にはメイユや、同じくらいの十代前半と見受けられる娘も何人かいた。
「困っていると聞いて助けになればと思ったんだけど、具体的には今どういう状況なのかな」
　サキリがおだやかに切り出すと、彼女たちは口々に、家がない、仕事がない、食べるもの着るものにも困っている、そも娼妓なんて街の人には疎んじられる、と言い募る。
「前みたいに住み込みで仕事が出来る場所があればねえ」
「それは娼館ということかい？」
「そうじゃない仕事があればそれに越したことはないけどねえ。でもあたしら、それしかしたことがないし。軽蔑するかい？」
　いや、とサキリは首を振る。自分も裏社会を経験している。軽蔑などできようはずもない。

「……仕事に貴賎は無いと思っている。表社会の仕事を望む人はそれででいい。ただ娼館でしか生きる術を知らない人もいるし、こういう仕事は決して無くならない。やる気と実力のある娘達が集まったら紅火楼を立て直すのも良いだろう」
　女たちはサキリの言葉を真剣に聞いた。
　自分たちを受け入れて貰ったと感じて、瞳を潤ませる娘もいる。
「しかしだ」
　楓が口を挟む。
「何かをするには相応の対価が必要だ。誰かが慈悲で助けてくれるのを待っていても状況が変わるわけがない」
「そうだよねえ」
　女たちの中でも一番年嵩の女性――と言っても二十代後半に見えたが――が、頬に手をあて思案気に頷けば、ほかの女たちもそれぞれ考えこみ始める。

　そのとき、さらなる協力者がやってきた。大通りの方から来たのはLeidenschaftの如月庚、屋敷野梢、志波武道の一行。裏通りの方から来たのは、桜庭円、恵御納夏夜、伏見真、音海なぎさ、それから黒髪を三つ編みにした美少女――。

「ユチェン！？　どうしたのその恰好！」

　輪の中に座っていたメイユが思わず立ち上がった。
　ユチェンは頬を染め、恥じらう様子で視線を逸らす。
　
「なんですぐ分かっちゃうんだ……」
「子どものころからどれだけ一緒にいたと思ってるの？　でもやだ、似合いすぎ！　あはは！！」

　鈴の転がるような笑い声が他の女たちにも広がっていく。ユチェンはますます頬を染めて恨めし気になぎさを見たが、なぎさは自信たっぷりに微笑みを返すのみである。