【お三夜】猫と鼠と人と悪魔、四つの世界が交わる夜｜リアクション

【お三夜】猫と鼠と人と悪魔、四つの世界が交わる夜

　山の裾野に呑まれた猫鳴館は薄暗く、早々と夜の様相を呈していた。築六十年を超えた木造の建物は老朽化が進み、僅かな風でも窓はガタガタと震えた。
　アイオ・キャンドライトは寒々しい一室で笑顔を見せた。黒地に赤い薔薇の柄の浴衣を着て、くるりと回る。
「ドキドキですわ」
　縦に巻いた薄い灰色の髪が弾んだ。帽子から解放された猫耳を存分に動かす。
　――寝子島では耳や尻尾を隠していたのですが、今日のお祭りは猫や鼠の仮装をするので問題ないのですわ。
　島の人々の声が情報源となっていた。
　アイオは胸の高鳴りのままに朱塗りの下駄を穿く。
　部屋を出る間際、深呼吸をした。
「行きますわ」
　吹っ切れた笑顔で一歩を踏み出した。

　猫鳴館の部屋の隅で穂現まうが丸まっていた。身体をすっぽりと覆う毛布の温かさで瞼が落ちそうになる。
「……寝ては、ダメ」
　意識して黄色の目を見開く。セミロングの髪は軽く巻いていて、その毛先が当たってくすぐったいのか。猫の手のような形で頻りに首筋を掻いた。
　もぞもぞと身体を動かし、定位置に収まる。凛々しい猫目となった。
　――うとうとしている場合ではないのです。この大切な住まいを破壊しようとする鼠達に死の鉄槌を下さないといけないのです。まだ、その方法が思い付かないのですが。
　まうは顔を曇らせた。
「足音、聞こえる」
　丸まった状態でドアの方に顔を向ける。数秒後、足音が止まった。
「今日はお祭りの日ですわ。部屋にいるのなら、マウも参加すればいいのですわ」
　一方的な会話を終えるとアイオは再び歩き出した。
「……お三夜祭り」
　まうは上体を起こし、猫の手で両目を擦る。
「気晴らしは、必要かも」
　大きな欠伸を切っ掛けにのろのろと出かける用意を始めた。