魔界調停室：ＷＩＲＥＤ｜リアクション

魔界調停室：ＷＩＲＥＤ

【冒険の始まり】

「ふーむ？」
　シーサイドタウンの自室にて、白真白はこてん、と首を傾けた。
　スマートフォンのホーム画面に突然現れた、謎のアプリ。インストールした覚えはない。おどろおどろしい黒と血のような赤に彩られたアイコンには、『魔界調停室：ＷＩＲＥＤ』とあった。
「なんだろ。いろんなゲームに事前登録してるから、覚えてないんだよね～」
　ゲームアプリのねこったーアカウントに登録すると、サービス開始後にゲーム内アイテムが受け取れたり、○○連ガチャに挑戦可能！　というアレだ。真白は常日頃から新しいゲームにはアンテナを張っておくタイプらしい。
「とりあえず、やってみよっかな。起動起動っと」
　ためらいなくタップする。ウィルスかな、と疑わないこともなかったが、真白らしく新作アプリへの期待感が勝った。
　画面の中に展開されるオープニングシーンは、簡素だ。昨今モバイルアプリでも流行のリッチな３Ｄムービーが流れるでもなく、淡々と物語のバックボーンが流れていく。
「プレイヤーは『調停者』っていうんだね。っと、チュートリアルがあるんだ。それじゃさっそく、新米調停者になってみますか」
　どうやらこれは、現実世界に画面を重ねて遊ぶ、いわゆるＡＲゲームであるらしい。
　調停者となったプレイヤーは、この世の影に潜む『神魔』たちと『絆を結ぶ＜ワイヤード＞』し、人の世に新たなる希望をもたらすのだ……というのが、ゲームの主たる目的のようだ。たくさんの神魔が登場し、好みのキャラクターを見つけては交流したり愛でたりすることができるという。
　カメラを向けると、自室の床の上に現れた魔法陣が淡くきらめき、画面に明滅するのは『ＷＩＲＥＤ』ボタン。
「最初に相棒の神魔をもらえるんだね、よーし。ていっ！」
　これまたためらいなくタップした。
「お、何か出てきた……わ！？」
　画面がまぶしく光り輝く。が、すぐに輝いているのがそればかりではないことに気づく。
　真白の部屋自体が輝いているのだ。床に描かれた魔法陣は画面から視線を外してもなお実際に描かれているし、虚構の遊びではない光が真白を包み込んでいく。
　やがて乱反射するまばゆい迸りが収まると、
「私は、神魔『スレイプニル』。汝、我が絆を結ぶことを望みますか？」
「……う、馬ー！？　しかも、足が六本もある！！」
　まぎれもなく目の前の現実に出現したのは、六本足の美しい馬体であった。

「ふーむ……！」
　白銀の美しいたてがみに、滑らかな手触りの毛並み。すらりとした六本の足。
「あまり見られると、恥ずかしいのですが……」
「あ、ごめんごめん。綺麗だからつい、ね」
　どうやら、メスらしい。
　いななきまでも優雅な神魔、スレイプニルと画面の中のチュートリアルを比べることで分かったこと、その１。
「つまりこのアプリは、神魔を本当に実体化させる力があるんだねー。また神魂の影響かなあ」
　どういう仕組みかしらないが、画面を通して映る現実世界へ、アプリはこの世ならざる物を呼び込む……あるいは可視化する能力を持つようだ。
　現れたスレイプニルはひづめを鳴らし、じっと真白を見つめている。神魔などという物々しいくくりではありながら、優しげな眼差しをしており、どうやら暴れ出すそぶりはなさそうだ。
　ちなみにスレイプニルという名前や存在については、真白がよく遊ぶカードゲームに登場するので知っていた。
「えーと、それで？　ここから何をすればいいんだろう」
　チュートリアルはまだ続いている。分かったこと、その２。
「神魔のお願いごとを叶えてあげると、神魔と『ワイヤード』し、仲間にすることができます……なるほど！」
　神魔ごとに設定された条件を遂行することで、その神魔を仲間にすることができる。そして新たな神魔を自分の手札として加えていくことができる。
　いずれはバトルや対戦要素などの機能も解放されていくようだが、今はまだロックされている。今後に期待というところだろう。
　つまるところこれは、言わずと知れた任侠堂の『ねこっこ☆モンスター』や、カルト的人気を誇る『猫神転生（にゃじんてんせい）』シリーズのような、モンスターを集めてコレクションする類のゲームの亜種、といってしまってもいいだろう。
「なるほどね。で、君のお願いごとは何かな？」
「貴方がそれを叶えてくださると？」
「うんうん」
　もとよりもれいび、不思議現象はたびたび経験してきた。それがゲームであるならば、とりあえずやってみるのが真白である。
　スレイプニルはきらきらとした瞳で真っすぐに真白の瞳を覗き込み、言った。
「同胞の神魔たちとも、ワイヤードしてください。人界と魔界、神界との橋渡しとなるのが私の望みですので」
「なるほどね。オッケー、分かったよ！」
　やるべきことは定まった。
　びしりと指を立て、真白はスレイプニルへ誓う。
「神魔マスターに、私はなる！」
　さっそく真白は部屋を飛び出し、スレイプニルの背にまたがり駆け出した。
　行く先々で、多種多様な神魔と出会うことだろう。片っ端からワイヤードし、仲間を増やして、来たるべきバトル機能のアンロックに備えるのだ。
　新米調停者、真白の物語が今、始まる……！

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魔界調停室：ＷＩＲＥＤ

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