ユメユメ事変・壊　フツウ崩落｜リアクション

ユメユメ事変・壊　フツウ崩落

■戦いの朝が来る
　災いの夢を見た。
　椎井莉鳥が膝を付き、高笑いをする女に見下される夢だ。
　かたわらに倒れた人物が誰だかわかって、莉鳥は自分がおどろくほどの声を出していた。
　いや、出そうとしていた。喉が苦しくて、身体が重くて、手すら伸ばせないようなもどかしさにどうにかなりそうだった。
　スマホのアラーム音に目覚めたのは、そんな朝だった。

　あれがなんだったのか。深く突き詰めはしなかった。
　けれど何かが起きる予感だけが、莉鳥の頭をどこかぼんやりとさせる。
　ベッドに寝転がって本をよむうち……案の定というべきか、それはやってきた。

　――きこえますか――きこえますか――

「……そう。ただの夢じゃなかったのね」
　莉鳥はそばに置いてあったスマホを手にとって、『よく使う連絡先』に表示されている写真アイコンをタップした。

　平和というのは針の上にある。
　どこかの哲学者が述べた言葉だ。
　いつでも簡単に転げ落ちてしまうし、それが重くなれば自らを傷つけ崩壊する。
　たとえば高校生として過ごす三年間が、いくつものフシギと脅威によって脅かされていることを。
　それを守っていたからこそ、遊園地や水族館や、いろんな場所に遊びに行く日常があることを。
　北里雅樹は、常識として知っていた。
　あえて口に出すまでもない、あたりまえのこと。
　猫鳴館の一室で、受験用の問題集を解くというこの時間すら、貴重な……針の上にあるという、こと
　そしてそれをいつも実感させてくれるのが。
　今まさに鳴り出したＳＮＳアプリケーションの通知音と。
『椎井。今度はトラブルか？　それともレジャーか？』
『どっちだと思う？』
　どこかうんざりした相手のメッセージに、雅樹は苦笑した。
『トラブルか。それも、だいぶ厄介な』
　椎井はペンを挟むようにして問題集の冊子を閉じ、片手で文字を入力しながらジャケットを羽織った。
『それで、どこに行けばいい？』

　厄介事は嫌なんだがな。
　彼がそんなふうにつぶやきながらスマホをジャケットのポケットに入れるさまが、莉鳥には容易に想像できた。
　幼馴染だったことも、親友めいたなにかだったことも、恋人だったことも、友達だったこともある、彼。
　一言では言い表せないが、あえて言うなら腐れ縁の彼。
　小走りに公園へやってくる雅樹へ振り返り、莉鳥は持っていたスマホをジーンズパンツのポケットへとしまった。
「それで、今回の敵は？」
　嫌ともいわず、協力することを前提に尋ねてくる相手の様子に、莉鳥は特に表情を変えることもなく話し始めた。

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