彼は本土から来たと語る中学生だった。
『寝子島はいい土地だね。空気も綺麗で海や山も見える。とても面白いよ』
そんな風に馴れ馴れしく語りかけてきた。
初対面だというのに随分と変わった奴だ。無視して通り過ぎようとすれ違うその時、彼はこう付け加えた。
『とくに神魂ってやつが面白い』
唐突な事件だった。
連続誘拐事件。それも寝子島でも指折りのろっこん使いたちが次々に倒され浚われるという、フシギを知る人間たちにとっては驚愕の事件である。
強力な幻覚を見せる者。
闇の鞭を使い乗用車をも投げ飛ばす者。
超高速で走る刀使い。
金縛り能力者。
広範囲の念動力者。
彼らに、敗北したというのだ。
だが焦るにはまだ早い。
――まだ起きていない、未来の出来事。あなたの見た、予知夢なのだ。
「うわ……!?」
志波 武道は飛び起きた。時計の針は早朝をさしている。
自分は、布団の上だ。
酷く汗をかいているのは、夏の暑さばかりのせいじゃない。さっきまで見ていた夢のせいもきっとあるだろう。
――きこえますか。きこえますか。いま、あなたに未来の夢を見せました。
――このままでは、あなた方のフツウが壊されてしまいます。
頭の中に直接声が響いている。だが、この現象には覚えがあった。
「ササヤキ……だね?」
かつて寝子島を突如襲ったフシギハザード。その到来を知らせ、解決策を示した謎の声である。
――彼らはユメユメの力を分け与えられた本土の人間たち。害ある神魂、『害魂使い』と呼ばれています。
「害魂使い……」
――みなさんの『ろっこん』がフツウを破綻させるような状況で発動しにくいのとは逆に、彼らの『害魂』はフツウを破綻させる状況でこそ強い力を発揮します。みなさんが将来敗北するのは、人通りの多い場所やテレビ中継される現場で戦いを挑まれたからなのです。
「…………」
武道は黙考した。
ろっこん使いを狙う敵。
敵の能力が、こちらと逆の性質を持つものであるなら、つまりはフツウの破壊者だ。
公共の面前で力を振り回し、人を傷付け、フツウを破壊していく。
「そんなことを、許すわけにはいかない」
武道はケータイを開き、ある場所へとアクセスした。
寝子島フシギ組合。フシギを知り、フツウを守る、正義のネットワークである。
ごきげんよう、ろっこん使いの皆様。
フツウの危機がやってきました。
あなたが神から分け与えられたその力を振るうべきときが、来たのです。
害魂とは
ユメユメというフシギ存在から分け与えられた力と、その人間たち。
それが害魂(がいこん)と害魂使いです。
彼らの力は周囲の人々がフツウを疑えば疑うほど強くなるという、ろっこんとはある種逆の性質を持っています。
そのためより強い力を振るおうと、公共の破壊をもくろんでいます。
勿論、力の源はユメユメですので命令に背くことは出来ません。ユメユメのもつ力によって、力の剥奪を剥奪されたり、最悪記憶や人格の消滅といったこともありうるからです。
彼らは超常の力を得るべく悪魔と契約した者たちだということです。
ササヤキによる未来情報
皆さんはササヤキによる脳内への語りかけや寝子島フシギ組合のネットワーク情報などから、害魂使いが起こす事件を事前に知ることが出来ました。
彼らは人の多い場などでろっこん使いに戦いを挑み、次々に倒していくという計画を立てています。
どこで行動を起こすかは分かっていますので、先回りしてひとけのない場所で戦いに持ち込んだり、事前に人をその場から遠ざけておくといった対策をとることで彼らの能力を弱体化させつつフツウを守ることができるでしょう。
害魂使いの情報
害魂使いは5人。それぞれバラバラに行動を起こす予定です。
それぞれの名前と能力は以下の通り。
(PCたちはこれに加えてざっくりとした外見特徴や声色が分かっています)
五人の作戦は場所こそ違いますがほぼ同じ、『人の多い所で戦って倒す』です。その場所にたどり着くまえに先回りするか、対象の場所に人がいないようにするかは作戦次第です。
・龍岩(たついわ)
知的な男性。
条件:生物と目を合わせる。
能力:強制的に幻覚を植え付けることができる。効果時間と強制力は能力の強度に比例。
→予定している戦場:モール
・孤藤(ことう)
かなり背の高い男。
条件:中指を立てる。
能力:闇の鞭を発生させる。最長10mまで伸び、自身の体重のものまで持ち上げられる。速度や精度や能力強度に比例。
→予定している戦場:寝子島駅前
・大路(おおじ)
小太りな女。
条件:ヒステリックに相手をなじる。
能力:相手を金縛りにさせる。込めた感情が大きいほど金縛りが破られやすくなる。
→予定している戦場:寝子高前
・柳原(やなぎはら)
大柄であごひげのある男。
条件:両足を地面につけたまま集中する
能力:半径10mの物体を自由に浮遊移動させられる。速度や重量は集中の深さに比例。
→予定している戦場:商店街
・小南(こみなみ)
背が低くてやせ形の男。
条件:刀かそれに似たものを握る
能力:精神と肉体が加速され、周囲の時間が引き延ばされて感じる。
→予定している戦場:寝子中前
※こちらが行動を変えているので、彼らは狙うはずのろっこん使いとは遭遇できません。
とはいえ因縁深いものもあると思いますので、『自分が狙われるはずだった』という設定で挑みかかって頂いても大丈夫です。が、被った場合は見えないサイコロを振って決めます。
作戦のススメ
今回の敵は5人にバラけています。
アクションに『手の空いた所に参加』と書いて参加するのも良いですが、的確に相手の弱点を狙ったりクールなアクションをしたい場合は、やはり指名して挑むのがよいでしょう。
(害魂使いと戦う際はこちらがフツウを疑っている立場なので自動的に相手がちょっとだけこちらより強くなる都合から)害魂使いひとりにつき2人がかりで挑むのが妥当です。
……という事情ですので、コメントページを利用して『俺は○○を狙いたい!』と宣言したり『○○か○○狙いだが、他に移ってもいいぞ』と述べたりと、割りふりを相談してみるとよいでしょう。
綺麗にすべて1対2の勝負に持ち込めれば、この勝負はいただきです。