補習危機一髪！　～白い魔弾とウザイ奴～｜リアクション

補習危機一髪！　～白い魔弾とウザイ奴～

【わからないところはどこですか？みつけにくいものですか？】

　
　放課後の教室に集いし戦士達……もとい、生徒達の表情は様々だった。
　補習だから嫌そうな顔や沈んだ顔をしている者ばかりと思いきや、ウォルター・Bが見る限りそうでない者が何人か教室の中にいた。

「八神に美崎、君達は特に問題ない成績のようだけど補習受けるの？」
「は～い♪　やる気満々ですっ」

　美崎岬が元気よく手を挙げる。

「はい、授業だけでは不足している部分を補いたいので」

　八神修からは静かだが熱いやる気が感じられた。

「なかなか良い心構えじゃない」

　ウォルターは満足げに唇の端を吊り上げて笑うと、キュッと身につけている黒い革手袋をはめ直した。

「じゃあ早速始めようか。浅沼、君はどの教科？」

　席順が五十音順のせいで一番前の席についていた浅沼柳司はウォルターの問いかけにはっきり答えた。

「全部です」

　キリッ。

　その答えぶりはとても男前だ。
　しかし返事の内容はとても残念だった。

「そう」

　そんな残念な柳司の前にウォルターは笑顔で全科目の補習プリントをドサッと音をたてて無遠慮に置いた。

「ぅおおおおお……！」

　実際目にすると途方もない量で、受容しがたい現実に柳司は頭を抱える。

「悶絶している暇はないよ。さっさと頭動かしてね。全教科と言えば双葉、君もだね」
「ああ」

　双葉仄は腕を組み、赤点を取った者らしくない不遜な態度で答える。
　というのも彼女の場合正解を導き出せる頭脳を持ち合わせていながら敢えて珍回答しか書かなかったという背景がある。

「僕は正直そういうの好きじゃないんだよねー。だから今回は真面目にならないと許さないよ？」

　ウォルターはにっこり笑って優しい声音でそう諭すも、目が笑っていない。
　というか空気が冷たい。
　絶対零度の風に周囲がぶるぶる震える中、双葉はそんなことを全く気に留めずにしれっとした様子でプリントを受け取った。

　そんな仄の後ろでぼうっとしているのは恵御納夏朝。
　しかし彼女が呆けていたのは不真面目だからではない。

（試験が……日本史が、あと5分で解けって……）

　そう、先日の試験夏朝は実力を発揮できず日本史で赤点を取ってしまったのだ。
　それもこれもみんなあの落書きサンマさんのせいである。
　予想外のハプニングによる不本意な結果は夏朝の心に深い傷を残した。

（追試もあるし、気を取り直してしっかり勉強しないと……）

　ぼんやりしているように見えても夏朝は気を引き締めて日本史の補習課題を受け取った。
　しかしぼうっとしているように見えるのは夏朝だけではない。

（……なんで僕ここにいるんだろ）

　久坂日和は陽のあたる席で頬杖をつき、ぼんやりと外を眺めていた。
　勉強嫌いで不真面目な彼だが、先日の試験では全教科6割程度はとれていて赤点はなかったはずだった。
　それでも今日この補習に呼び出されたのには理由があった。

「くーさーかっ♪」

　天真爛漫。
　まさにそんな表現が似合う可愛らしい声と共に白いアレが空を切る音が教室に響く。

「……なに？センセー」

　運良く枕にしようと思って手にしていた教科書を盾に、日和はウォルターの投げたチョークをガードした。
　教科書の表紙は僅かに凹み、パラパラと砕けたチョークの粉が机の上に散らばる。

「若林先生の所に遊びに行ってた分、しっかり勉強しようねー」

　日和がよく『さほって』いることをウォルターはしっかり把握していたのだ。
　出席日数や成績がギリギリで足りているからと言って見逃してくれるほどウォルターは優しくはなかった。

　そして参加者全員に課題が配られ、チャイムが鳴る。

「始め」

　チャイムと共にウォルターが教鞭で教卓を叩き、短く開始の言葉を告げる。
　その直後。

『よぉ、待たせたな！』

　……招かれざるサンマ達がやってきた。

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