補習危機一髪！　～白い魔弾とウザイ奴～｜リアクション

補習危機一髪！　～白い魔弾とウザイ奴～

【静かな怒りは重く、重く。そして少女は散っていく】

　ここにもまた一人静かに怒っている生徒がいた。

（ちゃんと勉強したいのに……邪魔……！）

　夏朝の机の上で落書きサンマさんは消しゴムを投げ、ペンを転がし、プリントの隅に落書きをしたりとやりたい放題だった。
　最初こそ我慢していた夏朝だったが、それもそろそろ限界だった。
　そしてサンマさんが折角頑張って埋めたプリントの解答を塗り潰し始めた時、中間試験の屈辱が夏朝の頭にフラッシュバックし……遂にスイッチが入ってしまった。

『ぐえ！？』

　普段からあまり表情の変わらない夏朝だが、同じ無表情でもいつもと今の表情は明らかに温度差があった。
　冷たい。
　凍えるほどに硬質で、冷え冷えとした顔と目で夏朝は躊躇なくサンマさんを握りしめると筆箱から取り出したテープでサンマさんの手足を縛りあげた。
　更に硬く丸めたティッシュを口の中に詰め、更にテープでぐるぐる巻きに。
　これだけでも十分な制裁と言えるが、夏朝のターンは終わらなかった。
　いつも持ち歩いているねこシールを取り出し、雁字搦めにされたサンマさんにペタリと貼り付ける。

「……妨害する以上、覚悟はあったよね？」

　夏朝のろっこん【重く軽く】が発動した瞬間、小さな体に1キロの負荷がかかり、サンマさんは文鎮がわりにされてしまった。
　最初こそサンマさんも苦しそうにビチビチ跳ねていたが、だんだん動きは鈍くなり、最終的にピクリともしなくなったところでポンと白い煙と共に姿を消した。
　その様子を無表情に眺めていた夏朝だったが、妨害するものがいなくなって漸く一息つく。
　どうやらブチキレモード終了のようである。

（勉強に関係ない作業をしてごめんなさい……）

　心の中でこっそり謝り、夏朝は勉強を再開した。

　ウォルターに隠れて静かにサンマさんを駆逐し、補習に励む生徒がいる一方。
　隠密行動が向いてない生徒達もやはりいた。

（風邪で寝込んじゃって試験受けられなかったし、一生懸命勉強したいと思って来たんだけど……）

　大葉雛子は教室のあちこちでうろちょろしているサンマさんの姿に心なしか生臭さを感じで心の中でしくしくと泣く。

（お魚のサンマさんは好きだけど、これで嫌いになれるくらいのトラウマ光景だよ）

　特に小さいものがワラワラ寄ってくるものが苦手な人にとっては鳥肌ものではなかろうか。
　そんなことを考えつつ、きっとクラスの皆も同じではないかと考えた雛子はサンマさんの気を自分がひこうと考えた。
　そうすれば皆の負担が減るのではと考えたからだ。
　しかし気を惹くと言っても大ぴらに話しかけることは出来ないし……ということで。

（い・ま・こ・こ・に・こ・な・い・で）

　他の生徒の元へ向かおうとしているサンマさんを見つけた雛子は口パクで訴えかけた。
　その表情は真剣だ。
　しかしなかなか雛子の意図は伝わらず、サンマさん達は雛子をスルーしていこうとする。

（もー、ダメったらダメー！）

　首をブンブン左右に振って来ちゃダメということを体を張ってアピールする雛子に気がついたのはサンマさんではなく。

「大葉、僕の説明の何がダメなのかな？」

　丁度他の生徒の質問に黒板前で答えていたウォルターだった。

「ち、違っ……あ、あの、ちょっと目がおかしいので保健室に行って来たいと思いますうううううう！！」

　慌てて立ち上がり、教室の外に飛び出そうとする雛子。
　途中でサンマさんを何匹か捕まえ、そのまま外に連れ出そうと思ったのだ。

「目がおかしくても耳でボクの話を聞くことはできるよね？逃がさないって言ったと思うけど」
「ひえぇぇぇぇぇ！？」

　ヒュンヒュンと鋭い音を立ててチョークが雛子の足元に連続投擲され、雛子はすっ転んだ。
　痛い目を見た彼女にとって不幸中の幸いだったのは転んだ時に、あたりにいたサンマさんを押しつぶして消滅させたことだった。