化かし狐のお礼参り｜リアクション

化かし狐のお礼参り

「ぷっ……ははは！」
　遠くから気配を隠して見守っていたライレエ・アーレンスは思わず笑い声をあげた。狐退治の現場に着いた時には、必要以上の暴力が行われたことを知り、狩る側への制裁も考えたが……
「見守っていて正解だったか。人間と狐の友情が、こんな結末を迎えるなんてね」

「ふっ……ははは！　これは愉快だ！」
その笑いが聞こえたかどうかは定かではないが、摂狐もまた、大笑いを始めた。傷の癒えた狐の姿から、小粋な衣装の少年の姿に変身し立ち上がる。
「どんなに化かしても怒るも泣くもしなかった男が！　友だちになってくれと泣いているぞ！」
ははは、あははと腹を抱えてひとしきり笑って、摂狐は晋狐の手を取った。
「俺の負けだ。人間にも、お前にもな。妖狐の名はお前が継げ」
「あに様!?」
「これ以上無様な姿は晒せん。俺は……また経験を積み直す」
潔いことを言っても、やはり悔しいのだろう。摂狐の表情は複雑だった。頭を下げ泣く、鹿沼の前にしゃがみ込む。
「えい、お前はいつまで経っても本当に情けない。何てだめな奴だ」
「だって……だって、僕には……」
「泣くな！　この摂狐が、友だちになってやる」
鹿沼はがばりと顔を上げた。薄い頭が乱れ、涙で顔はぐしゃぐしゃになっている。
「本当かい！」
「本当だ！　その汚い顔を拭け」
摂狐は精一杯胸を張って、180cmの長身を誇る文貴と柘榴の前で腕を組んだ。
「おいお前たち。囲碁や将棋の名は知っているが、それだけだ。げえむとかいう代物を俺に教えて見ろ」
「おお？やる気か、小僧」
「摂狐と呼べ！　尾は失っても、誇りまでは捨てまいぞ。それで勝てば、俺は人間に勝ったことになるのだな？」
「ああなるとも。人間は勝負事に弱いんだ。負ければ死ぬほど悔しがる」
「囲碁をたっぷり仕込んでやるさ。それでおっさんと勝負しな」
「囲碁かい。僕は囲碁が結構好きなんだよ」
はしゃぐ鹿沼に、苦笑する大人たち。若きもれいびたちは美しいとは言いがたいが、ほほえましい光景を見守っていた。
（まあ、こんなものかな。一方的に利用しされる関係から好敵手に発展すりゃ大団円だ）
と、文貴は思う。
（やれやれ。大人の手管には感心させられる。が、俺のやり方もどうだか……人間は結局狡猾な生き物なんだな）
功労者であるはずの修は、半ば人間である自分を自嘲していた。
妖怪退治に奔走した人々は一足先に去ろうとしている。辺りに静けさが戻ろうとしている中、志波武道の傷を癒し終えた毒島林檎が、エレノア・エインズワースを追いかけていた。
「こらー！　そっちの傷も見せろって！」
「大した傷じゃありませんから。放っておいてください！」
癒さねば気がすまない林檎に、傷もまた勝利の証として取って置きたいエレノアの気持ちは理解できそうにない。
鹿沼はうれしそうに摂狐と晋狐の手を握り締めている。まるで子供連れの父親のようだった。二匹の狐も、決してまんざらでもない様子だった、とはその場にいたもれいびたちの言葉である。

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あとがき

担当マスター：清水るね
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お疲れさまでした。これにてシナリオ完結です。今回は完成がいつもより遅れてしまい、申し訳ありません。
摂狐はもはや妖狐とはいえない、ごく弱い力の妖怪になってしまいました。今後登場することがもし、あったとしても、みなさんのフツウを揺るがすことはないでしょう。最初は冷酷で高慢なキャラクターとして動かしていましたが、懐の深いキャラクターさま方の影響を受けて、彼もまた変化し始めているようです。

ご意見、ご感想などはコメントページにお寄せください。
それではまた、次のシナリオでお会いしましょう。

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