＜基本給＋歩合＞寝子島デジタルマッピング｜リアクション

＜基本給＋歩合＞寝子島デジタルマッピング

昼・寝子島漁港

　昼時の漁港は凪いでいる。波は穏やかで、人は少ない。何艘もの船が岸に寄せられ、プカプカと静かな振動を繰り返している。日差しは強く、ウミネコが方々で鳴いていてた。磯の香りを運ぶ風は湿っていて涼しい。
　そんな風景の中で異質だったのは、４人の女性集団。と、一台の特殊カメラ。さらに、大量の猫たち。

「いやーこれがほんとの入れ食いってやつだねぇ」
　桜庭円が感心するように言う。水産物加工施設からもらってきたかまぼこに、たくさんの猫が食いついているのだ。三毛、サバ、キジトラ。もちろん円の愛猫にゃーくんもメロメロだ。
「猫が一番いそうだからと思って漁港にしたけれど……正解でした！」
　綾辻綾花が自前の猫メモを開いて、さっそく漁港の猫たちの特徴を書き留めていく。
「ちょっと……それは私の指だよ！」
　普段はクールな弘明寺能美子もはしゃいでいる。三毛猫が能美子の空になった指先をペロペロ舐めた。
「猫の舌ってザラザラしてるんだねぇ」
「能美子ちゃんも猫が好きなんだ。僕嬉しいよ」
　猫たちのお腹をわしゃわしゃしながら、円が微笑む。
「べ……別に……猫とかあまり触ったことないから」
　理由になっているのかいないのか分からないことを言って、能美子はプイと猫の集団から離れ、カメラを背負う。
「みんな猫好きでよかったー」
　猫村翡翠がメンバーに恵まれたことを喜んでいる。
　猫たちがひとしきりかまぼこを平らげるのを見届けると、４人はマッピングを再開。漁港内を隈無く歩き始める。一番前をにゃーくんが行き、後ろからは猫が付いてくる。
「楽しいねー能美子ちゃん」
　後ろからカメラを支えながら、円が言った。
「み、みんなが楽しいなら、私はなんでもいいわ」
「ありがとうね、誘ってくれて」
「わ、私は……」素直とは対極のツンドラは計り知れない。「ちょっと疲れてきたんだけど、誰か代わってくれない？」
「じゃあ次は私が背負いますね」
　綾花が立候補。
「うわー重いなー」
　背負う手伝いを担った翡翠がカメラの重さに驚く。
（生活費を稼ぐためにたくさん回らないと）
　肩に食い込む重みに耐えながら、綾花は歩き始める。
「うーん私はちょっと役に立てそうにないな」
　そう言うと、翡翠、胸に手を当てて念じ始めた。
「おおっ」
　他の３人から歓声が上がる。

　ろっこん「トランス・キャットピープル」で完全猫化する翡翠。
（あーカメラに撮られちゃったかな……確か逆巻天野が処理班に選ばれてたし、対処してくれるだろ）
　細かいことは気にせず、猫の集団に溶け込む。にゃーくんも興味津々だ。
「猫と交流している。うらやましいです」
　綾花がうらやむ足元で、翡翠は猫しか知らない隠れスポットを、聞き出そうとしていた。

　不意に駆け出す猫たち。翡翠、にゃーくんと続き、円と能美子もついていく。

「待ってください……私体力に自信ないんですから」
　遅れて綾花。

「あれ……ここは……」
　猫たちを追って着いた先は、市場内にある食堂街だった。威勢のいい声と、お味噌汁の香りが漏れてくる。
「猫ちゃんたち、まだ食べる気なのかな」
　円が呆れる。
「私たちもご飯にしましょう」
　綾花が提案し、
「にゃ〜（賛成！）」
　４人は、こぼれんばかりのネタがのった、海鮮丼の店へと吸い込まれて行った。