＜基本給＋歩合＞寝子島デジタルマッピング｜リアクション

＜基本給＋歩合＞寝子島デジタルマッピング

昼・寝子ヶ浜

　沖合を一台のボートが走る。日差しは強くなったが、舞う飛沫と潮風が気持ちいい。二級小型船舶操縦免許持ちの孤高の釣り人、亜魚隈猯利は、寝子ヶ浜海岸のちょうど真ん中あたりでボートを止めると、カメラを背負う。
　ボートはレンタルしたもので、燃料代とともに経費として落としてもらうことになった。波に行方をあずけ、海側からの寝子島を撮影していく。ちょっと心配になったので、一回カメラを置くと、ライフジャケットを着せて、また背負い直す。念のための浮力確保だ。
　ある程度海岸沿いを撮影すると、うずうずが抑えきれなくなってくる。
（バイトついでの、魚の生息調査っと……）
　ブロロロロ。ボートを再び走らせる。海浜公園を回り込んで、桜川を目指す。
　好きなボートを操れる上に、魚釣りまで楽しめるなんて。そう思いつつ舵を取っていると、視界の隅のほうで、海岸を行くカメラを背負ったバイト仲間を見つけた。

　寝子ヶ浜をマッピングする６人は、ほのぼのと撮影を楽しんでいた。
「おっと、危ない危ない」
　カメラに気を遣って、波を避けながら海岸沿いを歩くエカテリーナ・クロキは、サンダル履きの軽装だ。軽いトレーニングも兼ねて参加した彼女にとって、マッピングは一石二鳥なアルバイトであった。
「転んで塩水に漬けたりしないようにな」
　もう少し砂浜寄りのところを、麦わら帽子を被った旅鴉月詠。華奢な体をしているが、カメラを軽々背負い、軽快に海岸を進んでいる。
「シールの効果が切れたら教えてね」
　すぐ後ろを追う恵御納夏朝。カメラの、月詠の背中と密着したところに、ねこシールが貼ってある。夏朝のろっこん「重く軽く」のおかげで、カメラを快適に運ぶことができていた。その夏朝自身が手ぶらなのは、月詠のろっこん「絵空事」で水筒やお弁当を封じ込めたからだ。
「ねこシール、要らないの？」
　夏朝がエカテリーナに向けてシールをちらつかせた。
「うん、ウェイトトレーニングで肩や背中を鍛えたいからさ」
　爽やかに言うと、小走りで波打ち際を走り出す。

　逆側、道路に近い砂浜では、梅戸有留と佐藤英二、御巫時子が並んで歩いていた。黒々としたカメラがなければ、健全な男女が青春を謳歌しているようにしか見えない。
「良い運動になりますね……」
　今は、時子が背負っている。ほんの５分程度で汗が吹き出し、ハンカチで顔を拭き拭き歩いた。
「疲れたらいつでも言ってね。休憩しながら、ゆっくり行こう」
　有留の言葉に英二も賛同する。
「はい。お話ししたりしながら、まったり行きましょう……」
　時子が笑う。

　海開き前の寝子ヶ浜は人が少ない。マッピングするには格別な時季だったといえるだろう。すぐそばの海岸道路を、オープンカーが夏定番のナンバーを運びながら走り去って行く。時折踏む貝の割れ崩れる音が心地いい。
「もう少ししたらここも、人でいっぱいになるんだろうね」
「また、泳げる時期に来たいね」
「そうですね……」
　寝子島の夏到来をいち早く感じ取るのだった。

　海岸を行く６人は、じきにエノコロ岬へ続く道へと入って行く。