寝子島ハロウィン☆デイズ！《寝子暦1370年版》｜リアクション

寝子島ハロウィン☆デイズ！《寝子暦1370年版》

「こっちっす」
　ロザリーと紫を『食べた』ゾンビのうちのひとりの青年がどこか申し訳なさそうに頭を下げる。
「あら」
　青年の案内で『食べられた』人々が閉じ込められる『牢屋』に案内されたロザリーは、両腕に抱えたぬいぐるみをそっと撫でた。
「牢屋っていうから怖いところだと思っていたけど……」
「そうね、……意外と」
　紫が小さく笑う。
　工事現場にあるようなプレハブの『牢屋』の中には、大画面のテレビとそれを見るために並べられた折り畳み椅子、一角には熱いお茶を淹れるための一式や籠に山盛りのお菓子まで用意されている。給仕のためのゾンビメイクなメイドまで居る始末。
「やられたら基本ここで待機っす」
　先に『食べられた』人々が『牢屋』でのんびり過ごしているのを眺めるロザリーと紫に、案内のゾンビは特殊メイク用品と姿見を置いた一角も示す。
「ゾンビになって復活することも可能っす。もちろん、襲う側になっちゃうっすけど」
　ふたりに言い残し、案内のゾンビはまた盛装側を襲うために出掛けて行った。
「あらあら、残念だわ」
　白い頬に片手をあててロザリーは呟き、『牢屋』の椅子にふわりと腰掛ける。
「紫ちゃんもこちらで盛装組の人を応援するのかしら？　それとも『復活』するのかしら？」
　疲れたしお茶でも飲みながら観戦する構えのロザリーに問われ、紫は迷うまでもなくロザリーの隣の椅子へ腰を下ろした。
「妹の応援をするわ」
「そう」
　紫に微笑み、ロザリーは膝に抱えた『息子』の頭をどこまでも優しく撫でる。
「……ふふ、アンリも眠っちゃったわ」
「お疲れさま」
　椅子に掛けて寛ぐ体勢に入るロザリーと紫に、前の椅子に掛けていた稀跡が振り返って小さく手を振った。
「あなたたちも感染……違うわ、」
　ちらりと口走ってから首を横に振り、言い直す。
「観戦ね」
　稀跡が眺めていたテレビ画面には、園内に設置されたカメラの映像がいくつも映し出されている。
「あのカメラってそういうことだったのね」
　ミラーメイズで見かけたカメラの正体に思い至り得心するロザリーの横、紫が小さく声をあげた。紫が視線を向ける分割されたテレビ画面のひとつに映っているのは、ライフル片手ナイフ片手に、ゾンビたちの群れの中を縦横無尽に駆け回り、獅子奮迅の大暴れをしている蒼の姿。
　妹のあまりの暴走っぷりに言葉を失くす紫に代わり、ロザリーが声をあげる。
「みんな頑張って！」