穴、穴、あなかしこ｜リアクション

穴、穴、あなかしこ

●穴　

　桜井ラッセルは大量のパンを抱えて廊下を歩いていた。
「よっしゃっ限定パンゲットー♪」
　今日はたまたまパンの入荷が遅れ、昼休みの終わりごろになって届いたらしい。
　購買のおばちゃんが困っているところに運よくラッセルが通りかかり、たくさん買い込んだ。
　なんてラッキーな日。
　しかし食べ始めたらチャイムが鳴ってしまい、残りは放課後に食べることにしたというわけだ。
「何所で食うかなー、青空の下ゆっくり食うか教室で、いや中庭、屋上も捨てがたいっ！？？」
　ふと窓の外を見て、グラウンドに開いた穴にハテナを浮かべたところで、彼のささやかな野望は中断された。
　足元にすでに空いていた穴に落ちたのである。

（手さえあいてりゃカナリアになれたのに……）
　と思いかけて、下敷きになっている男子生徒に気づく。
「……こんにちわ」
　気まずい中、咄嗟にラッセルは挨拶してしまい、そろそろと男子生徒の上から降りた。
　思ったより、痛みがない。見知らぬ先客とパンがクッションになってくれたおかげのようだ。
　相手は茶髪の男子生徒だった。ちょっと小太りで、口元にほくろがある。
　空から落ちてきたラッセルとパンに驚いて、こちらも咄嗟に声が出ないらしい。
「……（絶句）」
「ごめん、大丈夫か？　なんだこの状況、廊下の真ん中に落とし穴ってあり？！」
（ボコッ）
　穴は突然、さらに深くなった。
「……え？　廊下なのにさらに穴が深くなるって？　どういうこと？　……なんか、ごめんなさい」
「いや、ケガはさっき擦りむいたくらいだし、いいけど」
　よく見ると胸のバッジは２年生だ。
　なんだかわからないまま、ちょっと恨みがましい目で見られて、ラッセルは謝った。
（ま、こんな穴俺には意味ねーけど）
「なんとかしますから！　あ、俺の戦利品食べてちょっと待っててください。……一部つぶれてるけど」
　ちょっと思案して、ラッセルは突然穴の隅を指さす。
「あっ、そっちに焼きそばパンが！」
　男子生徒の注意がそっちにそれた隙に金の鍵を握り締めて、ろっこん発動。
　カナリアに変身して、そのまま飛び立った。

　廊下を歩いていた御剣刀は、向こうからやってきた浅井先生に声をかけられた。
「お、いいところに。すまないが、１－１０まで運んでおいてくれないか」
　といきなり荷物を渡し、そのまま先生は慌てて何処かへ行ってしまった。
「何だ急用か？　それでもいきなり荷物を渡して消えるなよ。あーあ、何で俺が、
　って何だ！？」
　刀は何かに蹴躓いてバランスを崩した。床をみると穴が空いている。
「何だこれ？」
　しばらく観察をしていたら穴は自然に塞がった。
「……これも神魂か」
　なぜ穴？　しかし放ってはおけない。
　そこにカナリアになったラッセルが飛んできた。
「ピイ！」
　廊下の角を曲がり、人がいないのを確認して人間の姿に戻る。
「お、いいもんあるじゃん！」
　見ると刀の持つ荷物の箱からロープが覗いていた。
「借してくれ！　そんで、手伝ってくれねーか？　あ、ア……のこと言うと落ちるみたいだから気をつけろよ」
　と穴を指さして言う。
「？」
　意味がよくわからないまま、刀は手伝うことにした。
（ア……浅井、じゃないよな？）
　刀が悩んでいる間に、ラッセルはドアの取っ手にロープの片方の端を縛りつけ、さっき落ちた穴へ下ろす。
　二人がかりでどうにか、穴の中の男子生徒を引っ張り上げることができた。
「ありがとう……しかしどうやって出たんだ？　あ、パン一つもらったよ」
「いやいや！　すみませんでした。念のため保健室行ったほうがいいですよ」
　首をひねる男子生徒から逃げるように穴に降り、ちょっと潰れたパンも無事回収するラッセル。
「ふう。とんだ災難だったな」
　苦笑しながらラッセルは、比較的潰れてないパンをいくつか刀に投げてよこすと、
「俺、状況みて回ってくる。同じようなやついるかもだし。分かったらねこったーに連絡するわ」
　そのまま駆けだした。
　刀もその後を追おうとして、荷物のことを思い出す。
「ロープはしばらく借りることにするか」
（とりあえず、穴にはまった人を助けつつなんとかする方法を考えてみるか。
「フツウ」を守らないとな）

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穴、穴、あなかしこ

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