穴、穴、あなかしこ｜リアクション

穴、穴、あなかしこ

●穴、穴なのだ！

　グラウンドのそこかしこに空いた穴に、後木真央は目を輝かせた。
「これはっ！　新聞部幽霊部員の血が騒ぐのだ！」
　同じ新聞部の八神修を見つけ、話しかける。
「修ちゃーん、面白いのだ事件なのだ、ねこったーＵＰするのだ話題騒然なのだ！　
　犯人はきっと最近恥ずかしいことがあった恥ずかしがり屋さんなのだ、仮称穴掘り穴助氏を見つけだすのだ……ぶぶっ」
　穴、という単語を発した瞬間、真央は足元に開いた穴に落下していった。
　結構大きな穴だが、真央はひるんだ様子がない。
「やるな穴掘り穴助氏……にゃっ」
　だがこの発言で、さらに穴は深くなる。すでに５ｍくらいの大穴になっている。
「大丈夫か？　５ｍ……場合によっては墜落死と言う事もありうる高さだな」
　修が覗き込む。
「大丈夫、自力脱出くらいできるのだー！　体育科舐めんなし！　深さ５ｍくらいなら普通に這い上がれるのだ」

「……何だこれは」
　そこへ逆巻天野がやってきた。
　今突然人が落ちたぞ、と中を覗けば真央の姿。
「……新手の覗き方法、ってわけじゃなさそうだね？」
「これでは落ち着いて勉強も出来ないし、用務員室で用具を借りるか」
　そう言いながら覗き込む天野と修に、真央は元気に答える。
「天野ちゃんもこんにちはなのだー。こんな穴、なんてことないのだー！　へぶっ」
　さらに深くなる穴。
「どうも、特定の単語がキーになっている気がする。後木……その、陥没についての言葉を口にするな」
　修は、言葉を選んで説明しようとするが。
「そうか、穴！　なのだ」
　その言葉と共に、またまた穴は深くなっていく。
「修ちゃーん、原因究明任せたのだ、真央ちゃんはひとっ走りブラジルかマントル対流まで行ってくるのだ
　確かマントルまで５０ｋｍと習った気がするのだ、一穴１ｍなら五千回連呼すればいいのだ」
「待て、それは明らかに計算がおかしいだろう」
　修の突っ込みを気にせず、真央は延々「穴穴穴……」と言い始めた。
　穴が深くなるにつれて声がだんだん遠くなる。
「……ああ、うん。気をつけてな」
「犯人は誰だろうね？　ちょっと探しに行こうか。後木も……たぶん助けるよ、後で」
　と天野が言えば。
「発生源は言語を解する存在……なのだろうか」
　修も、真央は放っておいてほかの人たちを助けることにした。
　まず台車と脚立を借りに、用務員室へ向かう。
　歩きながらも、あちこち回り、脳内に、陥没の位置を直径や位置や深さをなんとなくポインティングしていく。
（規則性があるようなら、より陥没の大きな方向に進み、怪異の震源地を探し当てたい）
　だが穴は開きっぱなしではなく、いつの間にか塞がっているものもある。
　規則性を見つけるのはなかなか難しそうだ。
　
　そこに、見覚えのある、鍵をぶら下げた金色のカナリアが飛んできた。
「お、桜井か？　上から見て規則性がないか意見を聞かせてくれ。
　文字になってるとかは……ないとは思うが」
「ピイ！」
　わかった、という返事代わりに一声鳴くと、カナリアは上空へ舞い上がった。

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