紅葉狩りと芋煮会｜リアクション

紅葉狩りと芋煮会

「芋煮会、楽しそうだな」
　佐藤英二は、面白そうだという理由で芋煮会に参加しました。
「紅葉も綺麗だな」
　景色を眺めながら、ほくほくと里芋メインの鍋を食べて料理を堪能します。　
　次はどれを食べようかとあたりを見ると、人込みの中に見慣れたアホ毛を発見しました。
「野々さん」　
「あっ、英二くん」
　声をかけると、ののこは元気な笑顔で手を振ってくれました。
　英二もニコニコと話しかけます。
「野々さんも芋煮会に参加してたんだね」
「うん、英二くんも来てたなんてびっくり！」
「さっきから芋煮を食べてるけど、里芋がよく煮えていて美味しいよ。景色も良いし……こういう野外で料理したのを食べるのって５割増しくらいで美味しく感じるのが定番だけど、それを差し引いてもすごく美味な気がするよ」
「うん、おいしいよね！　……あ、景色？　食べるのに夢中で気づかなかったけど、確かに綺麗だねー」
　ののこはきょろきょろとあたりを見て、紅葉に目を留めて笑顔になりました。

「そうだ、ちょうどよかった。今あれを食べに行こうと思ってたんだー」
「アレ……？」
　ののこの指さすほうを見た英二の笑顔が、凍り付きました。
　何やら怪しい匂いが立ち上っているアレは、闇鍋というやつではないでしょうか。
「え、アレはちょっとやめたほうが……」
「どうしてー？　面白そうだよ、行こう！」
　ののこに引っ張られた英二は断り切れずに、闇鍋風芋煮を食べることになってしまいました。
　戦々恐々な気分で冷や汗をかいている英二に、ののこは言います。
「何か具材を一品入れるんだって！」
　少しでも減ればいいのに、どこからそんなルールができたのでしょうか。
　あたりを見回し、英二は役場が用意してくれていた中から無難に白菜を選び、適当に投じることにしました。
「野々さんはそれ入れるの？」
「うん、美味しいかなーと思って」
　ののこの手にはみかんがありました。
　皮をむいて放り込みます。
「そうだね……ちゃんとした食材だもんね」
「うん、どんな味になるか楽しみだねー」
（“食べられる”味なことを願っているけど……？）
　胃薬が欲しくなってきた英二です。
　しばらく後にいよいよ覚悟を決めて食べることにします。
「せーの、で食べようか？」
「わかった」
　ののこの言葉に、英二の箸を持つ手に力が入りました。
「せーの！」
　ぱくっ。
「な……これは……」
「英二くん、糸引いてるよ？」　
「納豆……？！」
　よりによって英二の苦手な納豆でした。
　しかし、汁に溶けている分ねばねばが気にならず、闇鍋に入ってる時点でとても不可思議な味になっていたので……どっちにしろ不味いなら、嫌いなものでも大差ないかもしれません。
　口を押さえながらも、英二はそう考えることにしました。
「そうだ、野々さんは大丈夫？」
「うん、これだったー」
「それは……白菜？」
　どうやら英二がさっき入れた白菜だったようです。
「まあ食べられるよー」
「良かったね」
（野々さんが倒れたりしなくてほんとに良かった）
　自分の入れたものが役に立てたのかもしれない、と胸をなでおろす英二でした。

　