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- 学年：職業
- 00月00日生 00歳
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その傷に思う
夕陽の色に染まる寝子島神社の石段を上る御剣 刀の腕の上には、黒髪に紅玉の瞳の人形、ルヴィアがちょこんと鎮座している。
「日差し、強くないか」
応じる声がないことを知っていて、刀はルヴィアにそっと声を掛けた。
いつかのように答えてくれることはもしかしたら二度とないのかもしれないと何度となく思い知らされながらも、刀はルヴィアの小さな頭に差す沈みかけの太陽の光を無骨な掌で遮る。精緻な細工で造られた人形は、陽の光にも傷む。それでも刀は、刀なりに細心の注意を払ってルヴィアを連れて寝子島中を歩く。出来得る限りの時間をルヴィアの紅玉の瞳にさまざまの景色を映すことに割く。
それが、彼女の心に刻まれた傷を癒すことにきっと繋がると信じて。
茜の石段を上り切る。左右に迎える狛犬ならぬ狛猫にお辞儀して、刀は石畳を踏んで境内を進む。お社に参拝して後、日の当たらぬ神社の軒下をルヴィアのために借りる。
いつもの場所にルヴィアを座らせ、朱に染まる広い境内に立つ。
ルヴィアを座らせていたのとは反対の手に提げていた刃引き刀の鞘を払う。下段に構え、深呼吸と共に一度瞼を伏せる。
(まあ、今まで色々な存在と戦って来たからな)
伏せた瞼をもたげる。正眼に構えた刃の先に思い描くのは、いつか刃を交えた相手。
(想像する相手には事欠かない)
打ち込み稽古の相手は呆れるほどに大勢いる。
今まで出会い、戦って来たナニカたちが茜の境内に咆哮をあげる。あるいは残忍な笑みを浮かべ、あるいは心底楽し気な声を発する。巨大な剣を振り上げ、怪しげな術を使うために呪文を口にする。
振り下ろされる棘付きの異形の腕をかわし、僅かに空いた隙を狙い澄まして脇腹に刃の切っ先を抉り込ませる。
(できうる限り、速く、鋭く！)
己自身をも刃と化したが如く、深く踏み込む。刃を閃かせる。
横薙ぎに秋風を切り、返す刀に空を突く。切り裂いた想像の敵の血を払い、次なる敵に刃を定める。目に追えぬ速さで踏み込んだかと思えばぴたりと動きを止め、かと思えば怒涛の水の如く鋭く深く踏み込む。
緋色の境内で少年はひとり、剣舞に如く、けれど舞よりも鋭く速く刃を振るい続ける。
目の前に描いた敵の影を屠り、血振りして刀を鞘に納める。構えは解かずに腰を低く落としたまま視線を正面に据える。暮れなずむ境内の央には、敵と見定めた幻影がひとつ。
じり、と爪先に地を掴む。幻影の鎧着込んだ相手が大剣を振り上げる。一撃食らってしまえばひとたまりもなく骨まで断たれるその刃よりも速く、鎧の隙間目がけ抜き打ちの斬撃を叩きこむ。
実際の相手が居れば、刀に手応えがある。踏み込んだ足に受け止めるべき衝撃が来る。けれど今刀が対峙しているのは幻の相手。
刃がすり抜ける。全身の筋力で以て空を切った刃に身体が引っ張られる。
「っ、わ、」
稽古に夢中になるあまり均衡を立て直す間を見誤り、身体の均衡が崩れた。自分自身の勢いに流され、たまらず砂利の上に膝をつく。咄嗟に掌をついて身体ごと転ぶのまでは避けたものの、
「うへっ」
思わず素っ頓狂な声が零れて、集中が途切れた。厳しいまでだった表情が途端に年頃の少年じみて緩む。
(間抜けだ……)
転んでしまったことに苦笑を漏らし、その場にあぐらをかく。ヒリヒリする掌を見ると、砂利で切ったのか血が滲んでいた。
(あちゃ～)
転がった刃引き刀の柄を取ろうと伸ばしかけた手を戻し、反対の手で引き寄せて鞘に戻す。怪我をした手で柄に触れれば血で汚れてしまう。
(今日はここで終わりにするか)
息をひとつ吐いて立ち上がる。
「ルヴィア悪い、今日はここで仕舞いだ」
不完全燃焼がちな心をルヴィアに向けた笑みひとつで吹き飛ばし、尻についた土埃を払う。ルヴィアの指定席な腕の埃も丁寧に払う。血の滲む掌で触れないように、ルヴィアの白い肌やドレスを汚さぬようにそっと抱きかかえる。
夕陽の色を反射してか、ルヴィアの紅玉の瞳が煌いた。
何となく叱られている気がして、刀は腕の中のルヴィアを見下ろす。動かぬはずのルヴィアの瞳がこちらを見据えているようにも思えて、刀は怪我した方の手で頬を引っ掻いた。
「……ちゃんと治療するから大丈夫だよ」
感情を宿らせぬ白い頬が小さく膨らんだように見えて、刀は焦る。
「この程度の怪我なら今まで何度も、」
言い訳じみて口にしかけて、
「……嘘です、そんな事ないです。ゴメン」
更に叱られた気がして、刀は今度こそ素直に詫びた。
ルヴィアには、心がある。あの日までも信じていたけれど、神魂によってルヴィアが動いて喋った、奇跡にも似たあの一日が刀の心にはある。だからこそ、分かる。ルヴィアは今、きっととても心配してくれている。
紅玉の瞳と傷つきながらも優しい心を持つ少女人形を大切に抱き、刀は帰路につく。
「帰ろう、ルヴィア」
「日差し、強くないか」
応じる声がないことを知っていて、刀はルヴィアにそっと声を掛けた。
いつかのように答えてくれることはもしかしたら二度とないのかもしれないと何度となく思い知らされながらも、刀はルヴィアの小さな頭に差す沈みかけの太陽の光を無骨な掌で遮る。精緻な細工で造られた人形は、陽の光にも傷む。それでも刀は、刀なりに細心の注意を払ってルヴィアを連れて寝子島中を歩く。出来得る限りの時間をルヴィアの紅玉の瞳にさまざまの景色を映すことに割く。
それが、彼女の心に刻まれた傷を癒すことにきっと繋がると信じて。
茜の石段を上り切る。左右に迎える狛犬ならぬ狛猫にお辞儀して、刀は石畳を踏んで境内を進む。お社に参拝して後、日の当たらぬ神社の軒下をルヴィアのために借りる。
いつもの場所にルヴィアを座らせ、朱に染まる広い境内に立つ。
ルヴィアを座らせていたのとは反対の手に提げていた刃引き刀の鞘を払う。下段に構え、深呼吸と共に一度瞼を伏せる。
(まあ、今まで色々な存在と戦って来たからな)
伏せた瞼をもたげる。正眼に構えた刃の先に思い描くのは、いつか刃を交えた相手。
(想像する相手には事欠かない)
打ち込み稽古の相手は呆れるほどに大勢いる。
今まで出会い、戦って来たナニカたちが茜の境内に咆哮をあげる。あるいは残忍な笑みを浮かべ、あるいは心底楽し気な声を発する。巨大な剣を振り上げ、怪しげな術を使うために呪文を口にする。
振り下ろされる棘付きの異形の腕をかわし、僅かに空いた隙を狙い澄まして脇腹に刃の切っ先を抉り込ませる。
(できうる限り、速く、鋭く！)
己自身をも刃と化したが如く、深く踏み込む。刃を閃かせる。
横薙ぎに秋風を切り、返す刀に空を突く。切り裂いた想像の敵の血を払い、次なる敵に刃を定める。目に追えぬ速さで踏み込んだかと思えばぴたりと動きを止め、かと思えば怒涛の水の如く鋭く深く踏み込む。
緋色の境内で少年はひとり、剣舞に如く、けれど舞よりも鋭く速く刃を振るい続ける。
目の前に描いた敵の影を屠り、血振りして刀を鞘に納める。構えは解かずに腰を低く落としたまま視線を正面に据える。暮れなずむ境内の央には、敵と見定めた幻影がひとつ。
じり、と爪先に地を掴む。幻影の鎧着込んだ相手が大剣を振り上げる。一撃食らってしまえばひとたまりもなく骨まで断たれるその刃よりも速く、鎧の隙間目がけ抜き打ちの斬撃を叩きこむ。
実際の相手が居れば、刀に手応えがある。踏み込んだ足に受け止めるべき衝撃が来る。けれど今刀が対峙しているのは幻の相手。
刃がすり抜ける。全身の筋力で以て空を切った刃に身体が引っ張られる。
「っ、わ、」
稽古に夢中になるあまり均衡を立て直す間を見誤り、身体の均衡が崩れた。自分自身の勢いに流され、たまらず砂利の上に膝をつく。咄嗟に掌をついて身体ごと転ぶのまでは避けたものの、
「うへっ」
思わず素っ頓狂な声が零れて、集中が途切れた。厳しいまでだった表情が途端に年頃の少年じみて緩む。
(間抜けだ……)
転んでしまったことに苦笑を漏らし、その場にあぐらをかく。ヒリヒリする掌を見ると、砂利で切ったのか血が滲んでいた。
(あちゃ～)
転がった刃引き刀の柄を取ろうと伸ばしかけた手を戻し、反対の手で引き寄せて鞘に戻す。怪我をした手で柄に触れれば血で汚れてしまう。
(今日はここで終わりにするか)
息をひとつ吐いて立ち上がる。
「ルヴィア悪い、今日はここで仕舞いだ」
不完全燃焼がちな心をルヴィアに向けた笑みひとつで吹き飛ばし、尻についた土埃を払う。ルヴィアの指定席な腕の埃も丁寧に払う。血の滲む掌で触れないように、ルヴィアの白い肌やドレスを汚さぬようにそっと抱きかかえる。
夕陽の色を反射してか、ルヴィアの紅玉の瞳が煌いた。
何となく叱られている気がして、刀は腕の中のルヴィアを見下ろす。動かぬはずのルヴィアの瞳がこちらを見据えているようにも思えて、刀は怪我した方の手で頬を引っ掻いた。
「……ちゃんと治療するから大丈夫だよ」
感情を宿らせぬ白い頬が小さく膨らんだように見えて、刀は焦る。
「この程度の怪我なら今まで何度も、」
言い訳じみて口にしかけて、
「……嘘です、そんな事ないです。ゴメン」
更に叱られた気がして、刀は今度こそ素直に詫びた。
ルヴィアには、心がある。あの日までも信じていたけれど、神魂によってルヴィアが動いて喋った、奇跡にも似たあの一日が刀の心にはある。だからこそ、分かる。ルヴィアは今、きっととても心配してくれている。
紅玉の瞳と傷つきながらも優しい心を持つ少女人形を大切に抱き、刀は帰路につく。
「帰ろう、ルヴィア」
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2019年08月29日
- 参加申し込みの期限
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- 2019年09月05日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2019年09月05日 11時00分
