ボイスコンテンツ搭載！　大きな声を出そう！｜リアクション

ボイスコンテンツ搭載！　大きな声を出そう！

7
　

「いい加減にしない？　こいつら、寝子高のやつらでしょ」手那がうろんな目を向ける。「腹立つんだよね」
「ちょっと、黙っててもらうかな」有戸が立ち上がる。
　のっそりと起き上がる場末。
　じっと助手席で、笑いを崩さない祖麩羅野。

　剣呑な空気があたりに充満する。

　最初に動いたのは手那。
「うざいんだよ！」
　うざいんだよの「う」を握りしめ、修に殴りかかろうとする手那。
　修は一瞬ひるむ。
　主義主張として、女には手を出さない。
　だがこのままでは、相手の一撃をみすみす食らってしまう。
　防御の心得はあるが、不用意に動いては、相手を傷つけてしまう。
　手那の残忍な瞳が、一瞬強くきらめいて――。

「なかなか面白いことになってますねー」
　手那の手を発止とつかんで、逆手にねじり上げるメイド姿の少女。
　檜扇舞華。
　短い悲鳴を上げ、ひっくり返る手那。
　

　メイドの舞華は、本業の傍らボイスアクターとしても活躍している。
　声についてはプロ。さらに普段からトレーニングもかかさない。
　
　たまたまお休みで、おいしいのど飴購入がてら出かけた旧市街で、もめごとを目の当たりにした。
　なにやら暴れるチンピラども。
　おまけに声を使って、迷惑をかけているらしい。

　知人が案の定介入、一触即発のムード。
　無法がまかり通るのなら、メイドの私が始末しなくてはならない。
（始末と言っても、何ができるか･･････）

「同じ土俵で争うくらいでしょうか？」
「てめえッ！」

　突如現れた舞華に、激高して声の刀をぶん回す手那。
　だが、独学剣術を身につけた舞華、徒手空拳ながらも素人剣術などものの数ではない。
　華麗にムーンサルトで躱していく。

「ちょっと、声をだしてみましょうか」
　距離を取った舞華、ふむと喉に手を当てる。

「あー『こげな不思議ん日にゃ、ちっと興奮すんのもわがるけどね』」

　周りが一瞬ひるむ。
　舞華の唇から出てきたのは、少女の外見に似合わぬ、ガラガラ声の老人のしゃべり。
　
　ひとによって高音だったり、低音だったり。
　舞華くらいの達人になれば、声色や声質さえ、自在にコントロールできる。
　ごつごつと角張った声ブロックが、がしゃがしゃと積まれる。

「あんた･･････ボイスアクター、ってやつか？」
　手那の顔色が変わる。
　舞華はにっこり笑って。
「『なんや、ようさん若造が暴れてはりますなぁ』」
　今度ははんなりとした京都言葉。
　声色はちょっととうのたった年増の風情。
　やわらかく、ねっとりとして、そのくせ腹にいちもつありそうな、油断のならない様子。
　――奇襲は基本。
「『ハッスルするんも結構やけど･･････やりかえされても文句言われしませんえ』」
　飛び出す言葉は、ねっとりとした餅状。
　それを頭から浴びせかけられた手那、動きを完全に拘束される。
「て、てめぇ･･････」
「『アハハ、怖いお顔や、堪忍しておくれやす？』」
　ケロリとした様子で、粘着質の言葉ブロックを投下する。
　柔よく剛を制す。非力を自覚し、自分の能力を奇襲と定めた、舞華の戦略。
　
「オラアアアア！！！」
　その時、地面の震えるような勢いで絶叫するのはチンピラ一の巨漢、場末。
　巨大な文字ブロックを抱え、放り投げる。

「『おいたんたち、いたいのはめーなのよ』」
　
　すかさず舞華は、甲高い幼女のボイスを繰り出す。
　ふんわりの少女ボイスが、綿状の盾となりブロックを包み込む。
　徹底して相手を妨害し、勢いを殺す。

　――女子には、あの大男は無理だ。

　修は場末にむけてダッシュする。