ボイスコンテンツ搭載！　大きな声を出そう！｜リアクション

ボイスコンテンツ搭載！　大きな声を出そう！

6

　時間は少し遡る。

　秋の気配が立つ寝子島。
　不意に物寂しくなったり、アンニュイな気分に浸りたくなる季節。
　志波拓郎は、その日急に、
「たい焼きが食べたい……」
　と思い立った。
「そろそろ、たい焼きが恋しい季節だよな」
　甘いものに目がない拓郎。
　香ばしい皮の香りと、餡の甘みが記憶によみがえってくる。
　
　コンビニなどで手軽に手に入るたい焼きもいいが、
「昔ながらの、本格的なたい焼きが食べたいな……」
　思い当たるのは、ただ一軒。
　旧市街の名店。

　そんなわけで旧市街にやってきた拓郎。
「……なんか、騒がしい？」
　何やら異変が起こっている様子。
　気にはなるものの、とりあえずたい焼き屋を探して……。
「あった、あそこか……イテッ！」
　後頭部に衝撃。
　拾い上げてみると、文字のブロック。
「誰だ、ぶつけたの……！」
　びっくりして、思わず手に力を籠めると、ぐしゃりとブロックのつぶれる感触。
「わーー！」
「おっと」
　つぶれたブロックから声があふれて、ぎょっとする。

　どうやら、出した声がブロックとなる現象が起こっているらしい。
　それをいいことに、暴れまわっている連中がいるとのこと。

　捨て置けぬと、駆け出す拓郎。
（……たい焼きを食べるのは、後回しだな……）
　あたりを見回すと、オープンカーに乗ってマイクや拡声器を片手に暴れまわる連中がいる。

（……あの人たちか）

　正面突破でご退場願ってもいいが、いかんせん１対４では分が悪い。
　うまく相手を無力化し、優位に立てる戦略が必要。
　ならば、こちらも文字ブロックを使えばよい。
（……そうだ）

　人目を避けて、路地裏に回り、拓郎は頬をぴしゃぴしゃと叩く。
　上げた顔には、凛とした瞳。
　そのまま身をかがめて、短い気合とともに跳躍。
　拓郎の姿は弾丸のように青空に撃ち出され、一瞬で民家の屋根に着地。
　拓郎のろっこん「テイクオフジャンパー」
　助走距離に応じ、跳躍距離を加算する。
　ろっこんの練達した使い手でである拓郎、最短の助走距離で、屋根までのジャンプを可能にした。
　騒ぎになっても困る。
　慎重にトタンの瓦を踏んで、拓郎はオープンカーの直上に位置をとる。

（……ん）

　少し状況が変化している。
　二人の男女が、オープンカーのチンピラに物言いをつけている。
　二人の姿は判然としないが、男の方は自分に気づいているようだ。
　そして遠巻きに見守る観衆たちの中から、車の陰に隠れて様子をうかがう女子が、一人、二人。

　あわてるべきではない。
　様子を伺い、適切な時に「自分の策」を披露しないと。
　
　拓郎は呼吸を整え、じっと機会をうかがう。