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10
まゆらの朝は早い。
今朝もスポーツウェアに着替えて、海岸まで一走り。
十分に準備運動をしたあとで、いつもの発声練習である。
潮風に、すこし涼しさが混じり始めた。夏のままのトレーニングウェアでは、風邪をひいてしまうかもしれない。
いままでの自分なら、その程度のことを気にしていなかったかもしれないが、役者として、他人に自分を見てもらうことを意識し始めてから、自分を大切にすることをまゆらは覚え始めた。
まして、彼女は先日、端役なれどアニメキャラクターを演じる機会を得た。
ついに、夢へ向かって一歩踏み出したのだ。
高ぶる心を抑え、日課を淡々と繰り返していく。
――と。
「生麦 生米 生卵」
どさ。
まゆらの早口言葉が、ブロックと化して砂浜に落下した。
「へ？」
まゆらはきょとんとする。
ランニング用シューズの足先で、コツンとブロックを小突くと「生麦―！」という音を発して、ブロックが二つに割れた。
「どうなってるの？」
――これって、いわゆるひとつの神魂ってやつ？
寝子島住人の例に漏れず、怪異に慣れっこのまゆら。
適応するのもはやい。
「あ、あー」
ためしに怒鳴ってみると、再びブロックが生み出される。
声が凝固するらしい。
――神魂だとすれば、しばらくすればどうにか収まるんだろうけど･･････。
「となりの客は、よく柿食う客だー！」
大声で叫ぶと、再びブロックが生み出される。
しげしげとその言葉を見つめるまゆら。
なんだか、いまいち形が整っていない。
養成所のトレーニングで、仮にアテレコした時の気分がよみがえってくる。
演技にはそれなりに自信があったつもりだが――そして事実、彼女の能力は優れたものだったが、あらためて作品の中で声を聞いてみると、まだまだ努力不足だと感じる。
先輩達に伍して、実力を出せるか不安だ。
まだまださらに練習。
そして今日は帰る前に、旧市街の書店でトレーニングの本を探してみよう。
――そんなわけで、旧市街にやってきたまゆら、トラブルの現場に出くわすことになった。
柄の悪そうな不良が、学生達に因縁を付けている。
――いや違う、学生達が能力を駆使して、チンピラをとっちめているのだ。
まゆらの心は興奮する。
すると、屋根の上から大音響の歌声が聞こえてきた。
あわてて逃げようとする不良。観客の方へ突進しようとする。
危ない！
まゆらのとっさにとった行動は、その場にふさわしいものだった。
「武具馬具武具馬具 三武具馬具！ 合わせて武具馬具 六武具馬具」
大音量の早口言葉で、即座に壁を作る。
瞬く間に形成される、声ブロックの柵。
「美術室 技術室 手術室 美術準備室 技術準備室 手術準備室」
綺麗なバリケードがつぎつぎに積み上がる。
観客から歓声が上がる。
「Ｂ」の音は日本語には存在しないため、綺麗な発音には修練が必要。
喉や肺活量を十分に鍛え上げないと、聞かせるものにはならない。
小手先ではない、地道な訓練をくりかえしてきたまゆらの、底力を見せつける形だ。
「茶たばこのんで たばこ茶のむ 茶たばこ たばこ茶 茶たばこのむ
ラバかロバかロバかラバかわからないので、ラバとロバを比べたらロバかラバかわからなかった！」
矢継ぎ早に繰り出されるブロックで、バリケードの中の場末はすでに埋もれて行動不能である。
そのバリケードに向け、修も言葉のブロックを投下。
修にとって、無意識に出てくるものといえば、
「3．14159126･･････」
「え、円周率！」
数学が苦手であろう一同から悲鳴が起こる。
仮説と検証を愛する修にとり、正確な数字は何よりも大切なものだ。
単にπで処理するのではなく、たまには正確な数字で本来の答えに迫ってみたい。
３．１４程度の数字では数学の正体に近づくことはできない。
正確な小数を可能な限り暗記することは、数学という神に対する、修の崇敬の証なのだ。
ネイピア数、さまざまなルート。
あらゆる無限小数は修に慣れ親しんだもので、いくらでも暗唱可能。
それらの式は、拓郎のアルファベットと組み合わさり、強固な結合をつくった。
「くそ、畜生！」
頭上から降り注ぐアルファベットブロックと、至近距離で自分たちの体を埋めようとする早口言葉ブロック、円周率ブロックに、完全に翻弄されるチンピラ。
いらだった有戸、闇雲に周囲のブロックをたたき潰し始める。
（お前は、ただの、人間だ）
そのとき、ブロックの間から声が響いた。
（ぐっ……）
急に脱力する有戸。
さげすみの笑いで彼を見るのは、心。
まゆらの朝は早い。
今朝もスポーツウェアに着替えて、海岸まで一走り。
十分に準備運動をしたあとで、いつもの発声練習である。
潮風に、すこし涼しさが混じり始めた。夏のままのトレーニングウェアでは、風邪をひいてしまうかもしれない。
いままでの自分なら、その程度のことを気にしていなかったかもしれないが、役者として、他人に自分を見てもらうことを意識し始めてから、自分を大切にすることをまゆらは覚え始めた。
まして、彼女は先日、端役なれどアニメキャラクターを演じる機会を得た。
ついに、夢へ向かって一歩踏み出したのだ。
高ぶる心を抑え、日課を淡々と繰り返していく。
――と。
「生麦 生米 生卵」
どさ。
まゆらの早口言葉が、ブロックと化して砂浜に落下した。
「へ？」
まゆらはきょとんとする。
ランニング用シューズの足先で、コツンとブロックを小突くと「生麦―！」という音を発して、ブロックが二つに割れた。
「どうなってるの？」
――これって、いわゆるひとつの神魂ってやつ？
寝子島住人の例に漏れず、怪異に慣れっこのまゆら。
適応するのもはやい。
「あ、あー」
ためしに怒鳴ってみると、再びブロックが生み出される。
声が凝固するらしい。
――神魂だとすれば、しばらくすればどうにか収まるんだろうけど･･････。
「となりの客は、よく柿食う客だー！」
大声で叫ぶと、再びブロックが生み出される。
しげしげとその言葉を見つめるまゆら。
なんだか、いまいち形が整っていない。
養成所のトレーニングで、仮にアテレコした時の気分がよみがえってくる。
演技にはそれなりに自信があったつもりだが――そして事実、彼女の能力は優れたものだったが、あらためて作品の中で声を聞いてみると、まだまだ努力不足だと感じる。
先輩達に伍して、実力を出せるか不安だ。
まだまださらに練習。
そして今日は帰る前に、旧市街の書店でトレーニングの本を探してみよう。
――そんなわけで、旧市街にやってきたまゆら、トラブルの現場に出くわすことになった。
柄の悪そうな不良が、学生達に因縁を付けている。
――いや違う、学生達が能力を駆使して、チンピラをとっちめているのだ。
まゆらの心は興奮する。
すると、屋根の上から大音響の歌声が聞こえてきた。
あわてて逃げようとする不良。観客の方へ突進しようとする。
危ない！
まゆらのとっさにとった行動は、その場にふさわしいものだった。
「武具馬具武具馬具 三武具馬具！ 合わせて武具馬具 六武具馬具」
大音量の早口言葉で、即座に壁を作る。
瞬く間に形成される、声ブロックの柵。
「美術室 技術室 手術室 美術準備室 技術準備室 手術準備室」
綺麗なバリケードがつぎつぎに積み上がる。
観客から歓声が上がる。
「Ｂ」の音は日本語には存在しないため、綺麗な発音には修練が必要。
喉や肺活量を十分に鍛え上げないと、聞かせるものにはならない。
小手先ではない、地道な訓練をくりかえしてきたまゆらの、底力を見せつける形だ。
「茶たばこのんで たばこ茶のむ 茶たばこ たばこ茶 茶たばこのむ
ラバかロバかロバかラバかわからないので、ラバとロバを比べたらロバかラバかわからなかった！」
矢継ぎ早に繰り出されるブロックで、バリケードの中の場末はすでに埋もれて行動不能である。
そのバリケードに向け、修も言葉のブロックを投下。
修にとって、無意識に出てくるものといえば、
「3．14159126･･････」
「え、円周率！」
数学が苦手であろう一同から悲鳴が起こる。
仮説と検証を愛する修にとり、正確な数字は何よりも大切なものだ。
単にπで処理するのではなく、たまには正確な数字で本来の答えに迫ってみたい。
３．１４程度の数字では数学の正体に近づくことはできない。
正確な小数を可能な限り暗記することは、数学という神に対する、修の崇敬の証なのだ。
ネイピア数、さまざまなルート。
あらゆる無限小数は修に慣れ親しんだもので、いくらでも暗唱可能。
それらの式は、拓郎のアルファベットと組み合わさり、強固な結合をつくった。
「くそ、畜生！」
頭上から降り注ぐアルファベットブロックと、至近距離で自分たちの体を埋めようとする早口言葉ブロック、円周率ブロックに、完全に翻弄されるチンピラ。
いらだった有戸、闇雲に周囲のブロックをたたき潰し始める。
（お前は、ただの、人間だ）
そのとき、ブロックの間から声が響いた。
（ぐっ……）
急に脱力する有戸。
さげすみの笑いで彼を見るのは、心。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2019年08月20日
- 参加申し込みの期限
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- 2019年08月27日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2019年08月27日 11時00分
