あなたのヒーロー教えて下さい！　ヒーローインタビュー｜リアクション

あなたのヒーロー教えて下さい！　ヒーローインタビュー

【ヒーローはあなたの中に・１】

　風雲児轟は、その日もランニング兼パトロールに勤しんでいた。将来寝子島のローカルヒーローとして故郷を盛り上げたいと考えている轟にとって、これは欠かせない日課なのだ。
　しばらく走ってから休憩、汗をぬぐっていると。

「キャー！　ごめんなさい、避けてーッ！」

　女性の悲鳴が聞こえたかと思うと、大きなカボチャが道を転がってゆく。ゆるやかな坂道でスピードを上げるその先には、犬の散歩をしている青年の姿が。
　当たったら怪我をするかも、と思うよりも先に。
　轟の足は動き、猛スピードで緑の塊に先んじる。

「うわ！」

　驚く青年の目の前でばしっ、とカボチャを掴む。
　受け身を取って路面に転がり、自分もカボチャも無事に済ませた。

「あの、ほんとうにごめんなさい！　お怪我は？」
　ほっと安堵していると、轟の傍まで歩いてきた女性がぺこぺこと頭を下げた。
「いえいえ。それより、荷物が重そうで大変でしょう。俺でよろしければ、お運びしますよ」
　女性にカボチャを返し、ぱんぱんに膨らんだ買い物袋を見て申し出ると、唐突に。

　わん！　と犬の声がした。
「あ、あの！　助けて頂いてありがとうございます」
「いやぁ、それほどでも」
　気恥ずかしくなった轟がぺこりと頭を下げると、青年はこう続けた。
　自分たちはＴＶ番組の撮影で寝子島に来た。あなたのことを取材させて貰えないか、と。

◆

「ヒーローインタビュー、ですか？」
「はい。地元の方々に、誰かを助けたり、助けられたエピソードを伺う番組なんです」
　女性を家まで送り届けた後、近くのベンチで轟は青年――天川春太郎と名乗った――の話を聞くことにした。

「先ほどの身のこなしに加え、女性を助ける仕草も実に自然だと、ウチのスタッフが申しております。風雲児さんは人助けの専門家だろうと」
　春太郎の視線の先、若い女性がキラキラした瞳で激しく頷いている。

「よろしければお聞かせ頂けませんか？　風雲児さんの人助けのお話を」
「う、うーん、そう言われても……」
　轟は困ってしまった。
　カボチャの一件はたまたまそうなっただけで、自身はＴＶに取材されるような大した事はしていない。
　
（ザ・ストレイトとしての活動を普通の人に話すわけにもいかないしなぁ……）

　轟はろっこん『戦衣着装』でヒーローに変身でき、その際は人助けを積極的に行っているが、それはあくまでも秘密裏にだ。

「あっ！」
　ふと、轟は思い出した。一人の少年のことを。
「ヒーローと言えば、今日、ちょっと前におばあさんを助けようとしてた男の子がいましたよ。俺から見れば、彼の方がヒーローです。一緒にいた友達からは「早く行こう」って言われたのに、勇気を出して行動したんですから」
「それは素晴らしいですね！」
　春太郎が微笑み、相棒のユキも嬉しそうに吠えた。

「おばあさんの耳が遠くて困ってるみたいだったし、俺も感動を伝えたかったので首を突っ込みましたが、次会う時があれば、もうその必要はなくなってそうだなぁ」
「……成る程、彼が風雲児さんにとってのヒーローだと、そういう訳ですね」
　轟はこくりと頷き、しっぽを振るユキの頭をそっと撫でた。

このページにイラストを設定する