あなたのヒーロー教えて下さい！　ヒーローインタビュー｜リアクション

あなたのヒーロー教えて下さい！　ヒーローインタビュー

【ヒーローとシルバーのリング】

「すみません！　少々お時間よろしいでしょうか」
　水上桜のもとに、彼らは突然現れた。
　ＴＶ番組のインタビューである。

「はぁ……町行く人に『あなたのヒーローは誰ですか？』と聞いて回る番組なのね」
　シベリアンハスキーを連れた青年、天川春太郎に問われた時、ぱっと思い浮かぶことがあった。

「私を助けてくれた人がいるんですけど……どこの誰なのか分からなくて。ありがとうも言えないままお別れになってしまって、気がかりなんです」
「なるほど……なら、番組を通じてお礼を言うのはいかがです？　ご本人出演の再現映像も撮影できますよ」
「再現映像、ですか？」
　桜は『あの時』を思い返し、助けられた場所にスタッフを案内することにした。

◆

　時間は先週の日曜日、場所は手芸雑貨店帰りの、細くて段差のある道。
「うふふ、今日は～、月に一度の１０％オフ～」
　手作りアクセサリーの素材をお得に入手して、うきうきの帰り道。

　頭の中は帰ったら作ろうと思っているアクセサリーの事でいっぱいで。ついうっかり、段差を踏み外して
しまったのだ。

「あっ」
　まずい、と思った時既に遅し。素材の入った紙袋は宙に舞い、中身をぶちまけてしまった。

「痛たた……あーぁ」
　幸い怪我はしなかったので、慌てて拾い集める。
　小指の爪よりも小さなラインストーンや、ワンポイントに使おうと思っていたチャームの数を確認して、
どきんと心臓が跳ねる。

　一つ足りない。

「どこだろう、シルバーのリングパーツ……あれが一番高いのに」
　買い直すことも可能だが、財布の中身は無限ではない。

「あの、大丈夫ですか？　俺も一緒に探しますよ」
　半ばパニックになりながら探していると、男性の声が聞こえた。程なくして、彼が見つけてくれたのだ。
「道ばたの草に引っかかってましたよ」
　安堵のため息をついているうちに、その男性は立ち去ってしまい。

　それ以来、ずっと心にとげが刺さったような気がしていたのだ。

◆

「水上さん、お疲れ様でした。ご協力、本当にありがとうございました」
「あ、いえ。こちらこそありがとうございました」
　桜は再現映像の撮影を終え、春太郎や他の番組スタッフに頭を下げた。

「最後に、カメラに向かってお礼を言ってもらってもいいですか？　水上さんのヒーローに届くように」

　春太郎の言葉に、桜はごくんと唾を飲み込んだ。
　――そう。
　インタビューも撮影も、そのために受けたのだ。

「あの、アクセサリーパーツを拾ってくれたお兄さん！　あなたのお陰でリングが出来上がりました！　本当に、ありがとうございました！」
　リングの写真をスマホの画面に出し、カメラに見せてから深くお辞儀をする。「撮影終了でーす！」という
スタッフの声でほぅ、と息をついた。

　わんわん！　という声に目を向けると、シベリアンハスキーがキラキラと、期待に満ちた目で桜を見つめて
いる。まるで『もうお仕事おわったでしょ？　かまってよ！』と言わんばかりだ。
「あなたもありがとうね」
　桜があごの下を撫でると、ハスキーは嬉しそうに尻尾を振った。

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