あなたのヒーロー教えて下さい！　ヒーローインタビュー｜リアクション

あなたのヒーロー教えて下さい！　ヒーローインタビュー

【休日のヒーロー】

　オーバーワークの日々にとれた休日――深倉理紗子は珍しく、午前中に目が覚めた。
「うーん……」
　理紗子はあくびをしながら目をこする。
　まだ寝足りないのだが、一度目覚めてしまうと眠れない。

　外出でもするか、と寝子島映画村へと足を向けた。
　村内の食堂でかき揚げうどんを朝食代わりに食べ、その辺をぶらつけば。
　ある所では時代劇の撮影をやっている。

『此度の悪行三昧、既に上様の知るところである！　潔く腹を切れ！』
『若造が何をたわけたことを！　者ども、であえであえぃ！』

　しばらく殺陣を見物して、歩き出す。
　別の場所では特撮ヒーローショーをやっていた。

『くっ……強い！　さすがは秘密結社ムートンの幹部メリノ……』
『はははは！　今までさんざん邪魔してくれたなネコライザー、だがお前の命もここまでよ！』

　幹部が大勢の手下でヒーローを囲むと、小さな観客達は大騒ぎだ。
「ネコライザーのピンチよ、お願い、助けて！　みんなの応援が彼の力になるわ！」
　司会役らしき女性の叫びに、子供達は立ち上がって叫んだ。
「がんばって、ネコライザー！」
「まけないで！」
　暫しアクションシーンを見物して、別の場所へ行こうとすると。

「まま」
　小さな女の子が、理紗子の服を掴んでいた。今にも泣き出しそうな顔で鼻をすすっている。
「……どうしたの？　ママやパパは一緒じゃないのかな？」
「まま、いない」
　ぽろぽろ涙をこぼす彼女の頭を撫でて、話を聞くと。
「スマホとおさいふ、ないの」
　迷子になり、落とし物までしてしまったらしい。

「そっか。どこで落としたのか、覚えてるかな？」
「うーん……ネコライザーにあうまえ、おトイレ行った」
　心当たりの場所を一緒に探すと、何とか見つかって一安心。
「あ、これあたしの！」
「よく頑張ったね」

　それからは、映画村の迷子センターに女の子を送り届けて、お別れして。
　理紗子の記憶から、彼女のことはきれいさっぱり消えてしまった。

　――数ヶ月後に、病院に取材の申し込みが来るまでは。
　興奮ぎみの上司に、スケジュールに空き作っといたから、と強引に押し切られ、何の事かと思いその日を迎えると。

「あっ！　あの時のおねえちゃん！」
「あら……あなたは」
　中庭で待っていたのは、番組スタッフとかつて映画村で迷子になっていた子、その両親とおぼしき夫婦だ。
　一人の青年が、理紗子の方に進み出て名乗った。

「こんにちは。僕は天川春太郎と申します。僕たちは視聴者の方の『ヒーロー』にインタビューしている番組でして。お話を伺ってもよろしいですか？」
　困惑しつつ応じると、どうやら女の子が理紗子をヒーローとして番組に推薦し、それを受けての取材なんだとか。
「あの時は、いっしょにスマホさがしてくれてありがとう、です。おねえちゃんはわたしのヒーローなの！　だからこれ、ぷれぜんと！」
　差し出されたのはスケッチブックの１ページだ。二人の人物が手を繋いでいる絵らしい。

「どうもありがとう。これ、わたしとあなた？」
　うん！　と女の子は元気よく頷く。
　その後のインタビューの続きやら撮影やらは少し大変だったが、一礼する両親に連れられ、スキップで帰る女の子の後ろ姿は、何故か理紗子の胸のうちを温かくした。
　同じスキップで病棟に帰るくらいには。

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