【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

　学校指定のジャージを着た佐藤英二がスタートラインに並ぶ。軽く息を吐いて構えた。
数秒後、乾いた発砲音が響く。全員が横一線で飛び出した。
　ほとんど差はなく、全員が紙を手に取った。
　英二の紙には欧風料理店『Mahlzeit』にあるドイツの置物と書かれていた。
　行動に迷いがなかった。即座に踵を返し、正門を駆け抜ける。寝子ヶ浜海岸に伸びる道を進み、突き当たると防風林の向こうに大海原が見えた。
　関心が移りそうになり、急いで目を逸らして左手に曲がる。走り続けていると左斜め前に特徴的な建物が見えてきた。ドイツ木組みの家街道を彷彿とさせる作りであった。
　店の前で英二は足を止めた。僅かな時間で息を整える。
「いくか」
　店内は木が中心の作りで温かみを感じさせた。必然と言わんばかりにインテリアに目がいく。
「いらっしゃいませ」
　声を掛けてきた人物に英二はぺこりと頭を下げた。
「僕は客ではありません。実は体育祭の借り物競争の最中で、このお店の置物を貸していただけないでしょうか」
「ああ、そういうことですか。構わないですよ。好きな物をどうぞ」
　気さくに返す人物に英二は困ったような笑みを浮かべた。
「高価な物は避けたいのですが、僕にはわかりません。出来れば選んでいただけませんか？」
「わかりました。少し待っていてください」
　厨房と思われるところに引っ込んだ。間もなくして小走りで戻ってきた。
「これをどうぞ」
「ありがとうございます。すぐに返しにきます」
　英二は小さなクマの置物を手にすると、笑顔で店を後にした。
　来た時の道を引き返し、一切の手を抜かずにグラウンドを一周した。
　顔半分を蝶のマスクに覆われた『借り物大魔神』は横手から飛び出し、右手の人差し指を立てた状態で青い空に突き上げた。
「行動の早さのおかげで逃げ切り一番だぜ！　ドイツの置物もクリアで満点をやるぜ！」
　その熱い言葉は観客にも伝染して盛大な拍手が送られた。
　英二は周囲に向かって何度も頭を下げた。両手を振って応えた。
　休む間もなく英二は走り出す。約束を守ってすぐに置物の返却にいった。
　店では同じ人物がにこやかに対応した。順位の報告には、おめでとう、と心からの言葉を貰った。
「本当に、今日はありがとうございました」
　英二は溌剌とした様子で店を出る。青空と同じように清々しい顔となった。