【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

「万条君、そろそろ出番だよ」
「え、俺が出場するの？」
　万条幸次は心底、驚いたような顔で問い返す。クラスメイトの一人は、そうだよ、と笑って返した。
「俺が借り物競争に……」
　自身の姿に目をやる。昨晩、実家から届いたライオンのパーカーに身を包んでいた。先程、小さな子供達に囲まれたことでもわかる。かなり目立つ格好となっていた。
「借りる物が近かったらいいんだどねぇ」
「万条君のクジ運によるかな」
　相手は朗らかに笑って運営のテントに走っていった。
「あんまり走りたくないんだけどぉ」
　不平を零しながらも参加者に加わる。
　最前列で見ていた曖浜瑠樹が目を輝かせた。
「ライオンさんだぁー！　がんばれぇー！」
「えー、まあ、それなりに」
　声のする方に向いて気の抜けた笑みを返した。
　間が悪いことに発砲音と重なって出遅れた。幸次は力のない走りで紙を手にした。
　眠そうな目が開く。
「黒猫のこしあんかぁ」
　のんびりとした声で内容を読み上げた。
　――校長先生の飼い猫だから校長室かなぁ。
　幸次は目星を付けて動き出す。南校舎の脇を通って北校舎に入った。
　来客用のスリッパに履き替える。階段で三階まで行き、校長室のドアをノックした。耳を澄ましても物音は聞こえて来ない。
「……失礼しまーす」
　小声で中に入ると校長の姿はなかった。隅々まで探したが猫のこしあんも見つからない。
「どこにいるのかなぁ」
　鼻先を指で掻いた。視線を落とす。指先が汗で濡れていた。
　――今日は暑いから冷房の効いたところにいるのかも。校長室は使われていないからあまり涼しいとは言えないよねぇ。教室もダメだと思う。理科室や美術室も同じかなぁ。
　小難しい顔で腕を組んだ。顔が不安定に揺れる。
　――外にいたらお手上げだなぁ。
　幸次は校長室を出た。左右を見ると廊下に人の姿はなかった。
「……使えるかなぁ」
　半信半疑で目を閉じて念じる。ろっこん『猫チェンジ』が発動した。頭部に猫の耳が現れた。耳の感度を上げた状態で周辺の音に意識を集中させる。
　――複数の足音は、生徒だねぇ。これは咳かなぁ。猫の足音は聞こえないと。
　速やかにろっこんを解除した。
「あそこかなぁ」
　幸次は思い付いた場所に向かう。早足となって二階に下りた。廊下を進んで職員室のドアの前に立つ。軽く息を吐いてドアをノックした。
「失礼します」
　先程よりも少し硬い声でドアを開けた。急に表情が柔らかくなる。
　――ひんやりした空気だから、ここにこしあんがいるかも。
　目立たないように足を忍ばせて入る。ポツポツと教師の姿が見られた。大半は机に向かって書き物をしていた。
　窓際のところで目が留まる。こしあんが丸くなっていた。糸目は眠っているようにも見える。
　幸次は近づいてこしあんを胸に抱いた。起こさないように細心の注意を払って歩く。多少、行儀が悪いと思いつつ、足でドアを開けて閉める。
　ゆっくりと歩き出す。夢でも見ているのか。こしあんは前脚をぴくぴくさせていた。
　目を覚ます前に北校舎を離れた。第一グラウンドに着くと観客の声援が波のように押し寄せてきた。
　にゃー、とこしあんが鳴いた。
「起きちゃったかぁ」
　幸次は小走りとなってグラウンドを回る。パーカーの紐が揺れて、こしあんはじゃれるように前脚を伸ばした。気を取られている間にゴールを果たした。
「なんとかなったねぇ」
　早速、『借り物大魔神』による判定が下された。距離は近かったが運ぶのに時間を要して二位となった。借り物は正しく、仮装が大いに評価されて黒猫組に百点が追加された。