【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

　――やるからには本気です。
　スタートラインに立った吉住志桜里は赤い紐をジャージのポケットから取り出し、その場で長い髪を結んだ。身が引き締まると同時に眼光が鋭くなる。愛らしいポニーテールは瞬く間に侍の髷となった。
　一礼するように頭を下げた。蹴り足を後ろに引いて不動の姿勢を取った。
　数秒後、乾いた発砲音が鳴った。志桜里は大きく踏み出し、砂塵を上げて走り抜ける。鋭い突きのような早業で手には紙を持っていた。
　走りながら内容を見た。瞬間、片方の眉尻が僅かに上がる。
　――トルコの置物！？　ドネルケバブ『Gule gule!』はケータリングワゴンで移動しているから探さないといけないわ。
　大きく弧を描いて駐輪場に走り込む。極太のタイヤのファットバイクに跨り、勢いよくペダルを踏み込んだ。凄まじい脚力で前輪が上がる。ウィリーの状態で走り、腕力で捻じ伏せた。
　――人のいる場所が狙い目。となると寝子島シーサイドタウンでしょうか。
　正門を風のように抜けた。青信号の車道を突っ切って直進する。漕ぐ脚が少し揺れてガードレールに触れそうになった。
「ふふ、楽しいですね」
　抑え切れず、口角が上がった。
　前方の信号機が黄色に変わった。咄嗟の判断でハンドルを左に切る。前輪と後輪を滑らせて横手の路地に飛び込んだ。道は細く、両側を建物に挟まれているせいで薄暗い。細かい石は極太のタイヤで難なく撥ね飛ばす。置かれたポリバケツは鋭いハンドル捌きで躱した。歪な段差は前輪を引き上げて跳ぶ。後輪で着地して尚、同じ速度を維持した。
　――荒れた道は脚力で捻じ伏せて、最短距離を最高速でぶち抜けて、神頼みならぬ借り物頼み！
「ふふふ、楽しいな」
　ファットバイクは道なき道をひた走る。
　キャットロードに出た。瞬時に目を走らせる。周辺は多くの人で賑わっていた。
　――ここも当たってみますか。
　一目で人の流れを把握して車道を軽快に走る。広場に横付けされる形で黄色いケータリングワゴンを見つけた。
「あれですね！」
　急ブレーキを掛けて滑りながら止まる。志桜里はファットバイクを横倒しにして急いでワゴンに駆け寄った。
「突然の頼みごとを許してください。今、寝子島高校で借り物競争をしています。このお店のトルコの置物を指定されまして、もちろん、お貸し頂ければこちらは全力でお店の宣伝を致します。いかがでしょうか」
「協力するよ。置物は白いフクロウでどうかな」
「ありがとうございます」
　小ぶりの置物はポケットの底に押し込んだ。志桜里は一礼してファットバイクを起こす。
　すると先程の人物から声を掛けられた。
「宣伝をするならケバブの味を知っておいた方がいいだろう」
「あの、今日は財布を持ってきていないのですが」
「宣伝で働いて貰うのだから当然の報酬だよ」
　志桜里は紙の容器に入れられたケバブを遠慮がちに受け取った。その場で一齧りすると、子供のように屈託のない笑顔となった。
「スパイスが気分を高揚させて最高です！　全力で宣伝させていただきます！」
　志桜里は活力に満ちた顔で来た道を戻っていった。

　駐輪場にファットバイクを置いて観客の前に躍り出た。全力の走りは見せず、リズムに乗ってグラウンドを回る。片手にはケバブを持ち、齧りながらリズムに乗る。
「残暑も吹き飛ぶドネルのケバブ　ぐらぐらだけど味はしっかりスパイス　楽しく頂く秘訣はアツアツ　気分は上々上等だ常夏」
「ドネルのケバブぅー！」
　曖浜瑠樹が口真似をする。両手を前に出して上下させた。膝を使ってリズムらしいものを刻んでいた。
「残暑も吹き飛ぶドネルのケバブ！」
「ドネルのケバブぅー！」
　志桜里の声に瑠樹が続いた。身体が左右に揺れ始める。
「即興の宣伝ラップでラウドに喧伝　義理は堅くいきますよっ」
　声に熱が籠る。観客は揺れ始めた。足でリズムを取る者もいた。
　志桜里はラッパーとなった。グラウンドを舞台にして観客の声援に全力のライムとフロウで応えるのだった。