【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　そうこうしているうちに、泉竜次と愛猫萌々子もパンの下へ到着した。体育科のアニマルチームは、涙をこらえきれず『お食事を！』だけやり直しになったようで、もう一度走り直していた。
「そうだ、このパン……ハズレもあるんだった」
　単にくわえられたら良いという話ではない。萌々子は覚悟をいれて、目の前のパンにかぶりついた――が、肩車だと少しパンの位置が低すぎて、上手く食べられない。
「先生、ちょっと中腰になれますか？　パンの位置が低くて……」
「お安い御用……っ!?」
　――ぐきっ
「い、今、何か鈍い音が……先生？　泉先生!?」
　人を担ぎ上げたまま腰に負担がかかるポーズをしたせいで、腰を痛めてしまった竜次。
　けれども、フラグのように聞いていた言葉『アンコール』を、萌々子が恥を捨てて観客にも助けを求めて大勢で行うと、不思議なことに竜次は復活した。
　その後、声援に答えるよう、竜次はゴールまで完走したのだが――その瞬間に腰痛が復活してしまい、萌々子は暫く救護室に付き合うことにした。

　　第二走者　スタート

　無事に八神修へとバトンを渡すことに成功した宮祀智瑜は、桐島義弘の背中から降りるやいなや感謝と喜びとで抱きついた。
「義弘先生っ！　普通科、いい滑り出しですよ」
　普通科の星チームは２位でゴール。僅差で芸術科のアニマルチームがいるが、これも義弘が懸命にゴールまで自分を運んでくれたから最後に追い上げることができた。
　智瑜は、『ジュリエットを救い出せ！』で奮闘している第二走者を眺めて、先程のことを思い出す。
「……私の手、覚えてくれたんですね」
「手？　ああ、さっきのことなら――君ならすぐに、私の手を握り返すだろう。最初のジュリエットは、そうじゃなかったからな」
　つまりは、手の感触を覚えてくれていたわけではなくて――。
「義弘先生のばかっ」
　こういう時くらい、嘘でも「そうだ」と言ってほしいのに。
　義弘は、どうして智瑜が急に拗ねてしまったのかわからず、リレーが終わるまでただおろおろと彼女を見守っていた。

　バトンの受け渡しも上手くいき、第二走者の羽生碧南と浅井幸太は、１位をキープしたまま合流地点についた。
　二人の衣装はくじ引きで、ウェディングドレスとタキシードになったのだが……当然のように、ジュリエット役の幸太がウェディングドレスである。
「羽生！　ここだ！　俺はここだぞー!!」
　去年はやたらと露出の高めな衣装を着せられた碧南にとって、タキシードはまともな衣装の部類でホッとしている。が、目隠しをする前にもう少し幸太のドレス姿を見ておけば良かったと心残りもあった。
「浅井先生のウェディングドレス姿、意外に似合ってたもんなぁ」
「こらぁ！　今はリレーの最中だ、余計なことを考えるんじゃないっ」
「いま、口に出てました？」
　声を頼りに手を伸ばすが、まだその手は掴めない。
「物凄くな。今はまだ余裕もあるだろうが、ここから先は大変だぞ？」
　パシッと幸太の手を掴んだ時、碧南はへらへらした感じが抜けて声のトーンが変わった。
「勝負が終わるまで、絶対油断なんてしませんよ」
「よおし、それでこそバスケ部の期待の星だ！　任せたぞ、羽生！」

　体育科の星チーム第二走者が、第二関門に向かって走り出す頃。普通科のアニマルチーム第一走者は５位でゴールをしたところだ。
　ルールはわかっているはずなのに、広い泥の沼地をみた野々ののこはウズウズしてしまい、泥を蹴飛ばしたりと遊び始めてしまったのだ。
　楽しそうなのはいいことだが、その分あとで苦労することになるのは佐藤英二。随分と重りの恩恵を受けることになり、息も絶え絶えだ。
「野々さん……いろいろと、お、お疲れさま……」
「たんのしかったね～！　ねぇねぇ、もう１周できるかなっ!?」
「さ、さすがに……登録してないと、ダメじゃないかな」
「あおいちゃんが２回出るって言ってたからさ～。今度は私もロミオやりたいなぁ」
　この競技が終われば、敵同士になってしまう。それを思うと、英二もずっと学科別競技ができたらと思わなくはない。
「じゃあ……誰か怪我とかで走れなくなったら、そうしようか。今回お互いすごく頑張れたから、次も頑張れるよ」
「うん！　でも、みんなが楽しめるように、誰も怪我をしないといいよね」
　ののこのふにゃり、と笑った顔を見て、英二は完走した達成感に包まれるのだった。