【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　体育祭前、練習に取り組んでいた佐藤英二と野々ののこは、息のあったプレイでなんとか４着。
　自分たちに合う適切なスピードと、一歩早めに指示をもらうことで左右の変換もできるようになった英二は、ドラム缶に戸惑うこと無く囚われののの子を救い出すことが出来た。
「ここからが本番だねっ！」
　二人の衣装は、女海賊と海軍セーラー。敵対する組織で惹かれ合う……まさにロミジュリらしい組み合わせ。
　檻から救い出したののこをなんとか背中におぶさる。
（練習のときも気になったけど……）
　ののこにとって、おんぶとは何でも無い物なのだろうか。英二にとっては、女の子と密着……それも気になる子が相手となれば、ドキドキしてしまうものなのだが。
「英二くん、ゴーゴー！」
　そんな気苦労など知ら無さそうな、楽しそうな声が聞こえる。
　今はまだ、競技中。英二は煩悩を追い払い、リレーに集中することにした。

　穂村敦と相原まゆが、どうどうの１位で第三関門の泥の沼地に訪れていた。
　第一関門は敦の野生の勘とまゆの教師の威厳をかけた鶴の一声で突き進み、第二関門はまゆのニャルキー愛でパンからする仄かな香りを嗅ぎ分けた。そのかいあって、クリームパンを引き当てたことで安定した速度でここまでたどり着いたのだが、その野性味溢れる連携プレイに、最早体育科だからという贔屓目は観客には無い。
　遅れて、芸術科のアニマルチームのジュリエットが、ロミオに支えられながら上空でポーズを変えつつ迫ってくる。運ぶだけでもやっとの競技の中で、観覧客へのパフォーマンスも忘れない精神は、さすが芸術科である。
「ぐっ……お、思ったよりキツイぞこれ……！」
　目隠しで方向感覚がなくなるのに加え、小柄とはいえ人ひとりを持ち上げたまま走らなければならない。芸術科のアニマルチームのような無茶をしていなくたって、腕はそろそろ限界だ。
「だーかーら言ったじゃない！　お姫様抱っこじゃなくて、背中におぶっときなさいって！」
「先生小柄だから、行けると思ったんですよ！」
　背中に背負っていたなら、まだ自分の腕がダメになっても、まゆに自力でしがみついてもらうことなどできたかもしれない。後悔したところで、今更体勢を変えることなど不可能だ。
「先生すいません、俺そろそろ限か…うおっ！」
言い終わるより早く、足を滑らせて転倒する。目前には、まだ後ろにいると思った芸術科のアニマルチームがいた。
「なんだっ？　妨害か!?　うぁあああっ！」
　一度踏みとどまってみたが、ぬかるむ泥では難しく、敦は盛大にすっ転ぶ。せめて先生だけは守らねばと両手を上げたが――そこにはなんの手応えもなかった。

　桐島義弘と宮祀智瑜は、智瑜が自分の部屋にパンを吊るして猛特訓しただけあり、パンを口に含むまでは早かった。
　ただ、夏季限定で販売していた、唐辛子入りあんぱんを引き当ててしまい、最初はあんぱんだと思ったものの、後から襲いくる辛さに翻弄されて、危うく走り直しになるところだった。
　まだ、一般販売されている辛さレベルだったことと、義弘から励ましの声をかけてもらったことで持ちこたえたが、それでも舌先がピリピリとする。
「義弘先生、もうすぐ泥のエリアですよ」
　今、普通科の星チームは３番手。ここで引き返すようなことがあってはならない。
　智瑜はぐっと義弘の背中にしがみついて、泥の沼地を超えることだけを考えた。
（先生の背中は広いから安心しちゃいます）
　泥につかないように足を上げて、スカートの裾は結んで。あとは、汚れそうになったら的確な指示を。
　今なら、体育科の星チームと芸術科のアニマルチームが揉めている。巻き込まれさえしなければ、ゆっくりと追い上げが狙えるかもしれない。
　叶うなら、秋晴れのこんな日は、このまま広い背中に甘えてみたいものだけれど。
「頑張ってください。泥のエリアには、大きな障害物は無さそうです」
　義弘の安全のためには、気を抜いていられない。智瑜は安心しきってしまう自分を叱咤しながら、リレー後半に臨んだ。