【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

第三走者　スタート

　点々と泥の足跡を残しながら、バトンは第三走者へと渡る。
　１位で走り出したのは、芸術科のアニマルチーム。続いて接戦で普通科のアニマルチームだ。なんとか食い下がるように、体育科の星チームも３位に、足止めを食ってしまった普通科の星チームも４位で健闘している。
　芸術科のアニマルチームのパフォーマンスは、同じ芸術科の星チームと体育科のアニマルチームにも泥の被害を出し、重りの効果で彼らは５位、６位となっている。

　やっとの思いで幸太をゴールまで運んだ碧南は、目隠しを取ると眩しさに目を細め、コースの端に用意された簡易タンクの場所までヨロヨロとやってきた。
　部活のドリンクでもお世話になるそれは、泥だらけの手で触っていいものか迷っていると、汚れの軽かった幸太が水をひねり出してくれる。
「お疲れ様だな、羽生！　よくやったぞ!!」
　幸太はウエディングドレス姿のはずなのに――キラキラと汗を輝かせた、可愛らしいイケメンのスチルをゲットしたような気がした。

「尚輝先生、そのまま真っ直ぐです」
　タイトなドレス姿で待つ御巫時子の元へ向かうのは、ホリゾンタルカラーとダークスーツを合わせた五十嵐尚輝。シルバーのタイが煌めき、二人並んでパーテイに出席していてもおかしくない装いだ。
　指示は混線するかと思われたが、尚輝にバトンが渡ったと同時に時子が指示を出す作戦が功を奏した。名前を言ってから指示をすることも、尚輝の混乱を防げた一因だろう。
　もしかしたら、直前まで他愛ないことを話していたおかげで、尚輝の記憶にも時子の声が残っているのかもしれない。
（どうか、怪我なく尚輝先生の手を掴めますように……）
　ハラハラと見守りつつ、凛とした声で指示をする時子の姿は、バルコニーでロミオに思いを馳せるジュリエットのようだった。

　芸術科はアニマルチームが１位で第三走者にバトンを渡したとはいえ、富士山権蔵と響タルトの星チームは５位だ。リレー全体で見れば折り返し地点、まだまだ挽回のチャンスはある。
「先生、左だよー！　左だってばー！」
　指示を出すタルトの衣装は、以前ホラー愛好会で自主制作映画を撮った時のスミレ色のドレス。母親役のため地味なデザインだったが、権蔵が見立てたレースの羽織物とポップなアクセサリーを合わせて可愛らしさが抜群にアップした。
　他のジュリエットたちも、頑張って声を出している、独特な指示を出しているチームもいるし、このままではタルトは上手く指示を出せない。
（そもそも、先生……僕の声わかるかな？）
　こんなことならば、二人だけに通じる合言葉を決めておけばよかった。とりあえずは、この声が自分だと気づいてもらえるように、何かアクションをしなければ。
「よし、歌おう！」
　校歌とか、誰でも歌えるものではなく、権蔵とタルトの二人しか知ら無さそうな曲。万が一反応を示す誰かがいたなら、レースが終わり次第お友達になりに行きたい曲――ＢＬ系のアニソンだ。
「そーのてっ♪はぁな～さないでぇえ～！　はーなっさないでーえー！　ぼーくがっ♫そーばぁに」
「いなくていいから、ちょっと一旦黙ってもらえるかしら？」
　手を前に出しつつ、ジュリエットの指示なく進んでいく権蔵。少しルールとは違うが、致し方ない。タルトが指示を出さなかった――のではなく、声を覚えてもらうためにと良かれと歌った歌唱力が、権蔵の目眩を引き起こすほど美しくなかったのだから。
　しかし、これで声を印象づけることはできた。あとは、進行方向を言えば伝わるだろう。
「先生から見て右だよー、受けのほう！　そこ急いで！　早割入稿ー！」
　打ち合わせをしていなくたって、きっと伝わる言葉。二人だけの暗号というのも面白いけれど、どこかで仲間が釣れないだろうか。
　そんなことを思いながら、スーツドレスで向かい来る権蔵に精一杯指示を飛ばした。