【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　両手の軽さに、敦は泥だらけになりながら、慌てて起き上がった。
「ま、まさかふっ飛ばしたか!?」
　辺りをみれば、目の前には芸術科のアニマルチームのジュリエットが、余裕の表情でまゆを持ち上げている。
（いや、お前は余裕でも、ロミオは思いっきり歯ぁ食いしばってんぞ……）
　まるでサーカスのようなそれに、ワッと歓声が巻き起こる。一体何が始まるんだと、敦はポカンと見つめていた。
「いやー今日の相原先生はお可愛らしい！」
「ぜひとも、その幼き令嬢の姿を描かせてください！」
「かっ……可愛いとか幼いとか、言うなぁあああ!!」
　恥ずかしさも相まってか、大暴れするまゆだが、さすがにそろそろ下で支えているロミオが限界なようだ。
「危ねぇ、先生っ！」
　芸術科のアニマルチームがぐらりと揺れ、宙に放り投げられたまゆを敦は慌ててキャッチ。それでもなんとか泥から守ろうと両手を上げ――先程と同じように、敦は泥の中へ盛大に転けた。
「ちょっと敦くん!?　大丈夫？」
「体力には自信があるんで。多少の重りなら大丈夫ですよ」
「そういうことじゃなくて……も～、ゴールしたら洗い場に行って、救護室！　わかった？」
「ッス」
　なんとか沼地を越え、重りもそこそこ持たされたのだが、普段から走り込みをしている敦にとって大した重量ではなく――体育科の星チームは、１位で第二走者にバトンを繋ぐことができた。

　第一次関門では出遅れた泉竜次と愛猫萌々子だが、直線距離になってからは強かった。
「次、パンの場所まで直進です」
「おおよそ、何メートルぐらいだ？」
　肩車で振り落とされるのでは無いかと思う萌々子は、竜次の頭にしがみつくのがやっとで、先をみるのも大変だ。まさか、子供の頃に憧れるであろう肩車が、背丈が伸びるとこんなに絶叫マシンになるとは思いもしなかった。
「残り……５０メートル程です！」
　よっぽど最後の合流になってしまったのが悔しかったのか、高校生を肩車してでも追い上げようとする竜次に、もう遠慮はいらない。萌々子の指示にも熱が入り、調子が出てきたかと竜次もニヤリと笑う。
「芸術科は特にだが、外へ表現する力が問われる。遠慮ばかりしていても始まらないぞ」
「さっきはすみません。……楽しようとか、手を抜いた訳では無いのですが、心配で」
　決してお年寄り扱いをするわけではないのだが、高齢なのは事実だ。どのように接すればいいのか、萌々子は距離を測りかねている。
「このリレーで何かあったら、『アンコール』と叫べ。俺は何度だって立ち上がろう」
　その謎なパンクファッションは、そういう意味が込められていたのか。妙に腑に落ちたような気がしてしまうのは、リレー中で高揚していて、頭が回転していないからかもしれない。
「あっ、パンが近いです！　どうやら好きに選べるみたいですが、今空いているのは……」
「愛猫が食べたいパンはどれなんだ？　間に合わせよう」
「なら……右で！」
　桐島義弘と宮祀智瑜が違うコースのパンを選んだようで、一番外側のコースのパンが残っている。変わった形のしていない、シンプルな丸い形をしたパンだ。
　という安全圏の話より、佐藤英二と野々ののこが目の前を走っている。このままでは２コース目のパンは食べられない――つまり、隣のコースからのの子がパンを食べようと必死になるシーンが見れるのだ。
　これはぜひとも、彼女たちが通過してしまう前に竜次にたどり着いてもらわなくては。
「どいてくださーい！　年の差６０歳のロミジュリが通りますよ！」
「おいおい、そんなに離れていたか？」
「大丈夫、それが自慢のペアなんですから！」
　竜次はやや納得が行かない様子だったが、萌々子にとっては自慢の担任であり――。
（……んん？）
　何やら不可思議な気持ちがあってもやっとするが、ひとまずそれは心の隅に避けておいて、萌々子はめいいっぱい指示出しを頑張った。