【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　　第一走者　スタート　

　続々と第一走者のロミオが並ぶ。
　外側のコースから各学科の星チーム、普通科より桐島義弘、芸術科より、泉竜次、体育科より穂村敦が。４コース目からはアニマルチームとなっており、普通科から佐藤英二などが参戦し、各々ファッションを活かした目隠しを行い、スタートの合図を待った。
（体育祭って、生徒のための物じゃねーのか……？）
　敦は、自分のペアもさることながら、先生の参加率に衝撃を受けた。
　てっきり、数合わせか何かで先生と組まされたと思っていたのに。しかし、相手が誰であれ手を抜くのは失礼というもの。軽く足首をまわしてみて、スッと意識を耳に集中させた。
「位置についてっ！　よーい……」
　――パァンッ!!
　スターターピストルの軽快なクラッカー音と共に、真っ先に足を踏み出したのは敦だ。風にのってくる硝煙の香りに、体育祭が始まったのだと思うと、うだうだ考えていたことも吹き飛び、楽しさが湧き上がってきたのか、口元は綻んでいる。
　続くは義弘が競歩とも思える姿勢と速度で追い上げる。古代ローマを彷彿とさせるゆったりした服にマントをなびかせ、最初の障害物までスピードを上げていく。
　そして遅れてスタートしたのは竜次と英二。二人はジュリエットの指示を正確に聞き取ることを重視し、的確にクリアすることを目標にスピードを犠牲にしたようだ。

　着々と敦がクリアしていく中で、逆の立場だからか先生に遠慮をしているのは愛猫萌々子。衣装だけはガーゼを重ねたロングＴシャツにチェーンや安全ピンがたくさんついたパンクファッションだが、急かさないように最低限の指示だけをゆったりと伝えるべく、落ち着いた声音で話している。
「ジュリエット！　遠慮せずにどんどん指示を！　このままじゃバトンを届けられない」
　それに応える竜次もまた、右は白黒、左は赤黒チェックのボンテージパンツにスタッズのたくさんついたレザージャケット。目隠しはパーティグッズの前が見えないグラサンを使用しており、御年を疑う出で立ちだ。
「で、では……少し右寄りに真っ直ぐ……もう少し右……」
　とはいえ、あまり大声で呼ぶと焦らせてしまうのではと心配になった萌々子は大きくハッキリとした指示を飛ばすことができず、彼はなかなかドラム缶の海を渡りきることができない。
　そんな時、声の小ささが災いしてか竜次はドラム缶にぶつかってしまった。
「先生っ……！」
　思わず、萌々子は手を伸ばす。しかし、こんな距離からよろめいた竜次へ手をさしだせるわけも――ないのだが、その手はしっかりと握られた。
「へ？」
「あーっ！」
　待ったをかけるように声を上げたのは、宮祀智瑜だ。目元を隠され独特の衣装を着ているので一瞬わからなかったが、萌々子の手を握ったのは義弘。古代ローマの令嬢のような智瑜を見れば、彼女とペアなのだろうことはわかる。
　どうやら、先生と呼びかけて手を伸ばしたせいで、他のペアに誤解を与えてしまったらしい。
「この手……宮祀じゃないな？」
「そ、そうです！　私はここですよ、義弘先生っ」
　ジュリエットから手を握りに行くことはできないので、差し出して掴んでくれるのをひたすら待つしかない。
　空を何回か彷徨いながら、義弘は智瑜の手をしっかりと握りしめた。
「ふむ……この手だ、私のジュリエット。一緒に来てくれるな？」
「はい……！」
　ゴムチューブで出来た檻を広げ、義弘は智瑜を抱きとめる。そうして颯爽と走っていくさまは、なんと少女漫画らしいのだろう。
「義弘先生、ストップです！　コースから外れちゃいますっ」
　義弘の首に腕を巻き付け、耳元でしっかりコースの指示をする。その顔は、手を握った瞬間に自分だと気づいてくれたのが嬉しかったのか、幸せそうな顔をしていた。