【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　引き裂かれる前のロミオとジュリエット――つまり、着替え終わった選手の集合テントでは、あちこちでお互いの衣装に笑ったり、作戦会議を行う声で賑わっていた。
　例えば、普通科の桐島義弘と宮祀智瑜であれば、合流地点でジュリエットの手を間違えないようにと、義弘に手を覚えてもらうべく智瑜は手を握っている。
「握る手、間違えないでくださいね？」
「……善処はする、が……君から握られてばかりだと、練習にならない気もするが」
　あくまでも、目隠しをしたロミオからジュリエットの手を握らなければならない。これでは、手を握った後に智瑜かどうかを覚えられるかもしれないが、智瑜の元にたどり着く練習にはなりそうもない。
「そっそうですね……じゃあ先生、練習です。目を閉じてください」
　数歩離れた先で立ち止まり、智瑜は小さく気合いを入れる。
「右と左では他の人と被りそうですね。私が東って言ったら右で西って言ったら左にしましょう」
「私から見てでいいのか？」
「はい！　聞こえなかったら真っ直ぐです」
　たった数歩、それでも目を閉じるとフラフラして進めないものらしい。智瑜は慎重に指示を行い、義弘は無事に智瑜の手をとることが出来た。
「やった！　義弘先生、本番も真っ直ぐ私の所に来てくださいね？」
「ふむ……宮祀、もう一度構わないか？」
「は、はい！　集合まで、何度でも練習しましょう！」
　やる気を見せる義弘に嬉しくなった智瑜は、手が繋げることに浮かれて指示を間違えることのないよう、緩んでしまいそうになる顔を引き締めて最後の練習に臨んだ。

　普段から制服を着崩している穂村敦はげんなりしていた。
　これから運動をさせられるというのに、ジャボのついたワイシャツに、バーガンディのベスト。おまけにひとつ結びの髪には黒いリボンまで指定され、窮屈なことこの上ない。
　まだ、ジャケットやコートが無くて良かったかと思えるが、下はベストと同色のスラックスに、ロングブーツに見立てたブーツカバーである。優雅に乗馬でもするならまだしも、障害物のならんだトラックを見て溜息を吐く。それは、誰かと重なった。
「どうして、よりにもよってピンクなの……」
　背後からうめき声のような物が聞こえて振り返ると、相原まゆが淡いコスモスを連想させるドレスに、羽飾りがついた帽子を被って腹部をさすっている。ウエストが強調された様子を見ると、コルセットでも締め上げられたのだろうか。
「……すげえっすねこの学校、いろんな意味で」
「何事にも全力なのは、悪いことじゃないんだけどね」
　その飛ばっちりをうける立場になると素直に褒めづらいのか、まゆは苦しそうに呼吸を整えながら、衣装の裾をたくし上げた。もともと引きずるくらい裾が長いのだろうが、まゆの背丈も相まってそれでもつんのめりそうになっている。
「まあ、選ばれたもんはしゃーない！　出るからには目指せ１位！」
　パンッと手のひらに拳を打ち付けやる気を見せると、まゆはクスクスと笑っている。
「どうしたの？　あんなにエントリーした覚えがないって困ってたのに」
「いや、こんなお嬢様と従者みたいな格好は困りますけど、別に勝負は嫌いじゃないんで」
「良かったわ。転校生って聞いてたから、寝子高のイベントについてこれるか心配だったの」
「ッス。祭りと勝負は任せてください！」
　他の学年の先生にまで心配させるとは、男として不甲斐ない。
　まだまだエントリーされた謎も解明できてないし、不思議なことは多いのだが――今は全力で体育祭に打ち込もうと、敦は気合いを入れて返事をした。