【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

「どーいうことだ、鷹取ぃいい!!」
　見知った顔の多い上級生の教室に恐れる物は何も無く。芸術科の代表に決まってしまった滝原レオンは、勢いよく３年６組の教室のドアを開いた。
　まだ質素なお弁当を食べている鷹取洋二の元まで歩み寄ると、担任から手渡されたプリントを机に叩きつける。
「奇遇だね、君も出るのかい？」
「俺はエントリーしてねぇよ！」
「生憎、僕は乗り物が苦手でね。ロミオを希望したんだ」
「誰もんなこと聞いてねーよっ！　お前の差し金か？」
　何が、と言い淀み怪訝な顔をしながらも、洋二はプリントを覗き込む。どうやら、レオンはペアである自分に何らかの文句を言いに来たらしい。聞いていなかったけれど。
「ああ、美しい僕のペアが務まるか不安なんだね？　確かに僕がジュリエットをするより見劣りはするだろうが――」
「……ああ？」
「僕はロミオ側だから、安心してジュリエットをしてくれて構わないよ」
「誰が見劣りするだって？」
　ゾクリとするような声音で聞き返すものだから、さすがの洋二も口を閉ざした。
「わかった、やってやる。お前が落っことしそうになるくらいのジュリエットになってやろうじゃねぇか、ロミオ様？」
　何かがレオンの逆鱗に触れたようで、喧嘩を買ってやると言わんばかりに啖呵を切る。
　そのまま騒然としている教室を闊歩し、開けっ放しだったドアをくぐってイライラしながら廊下を急いだ。
（放課後にでも、新しいウイッグを見に行かねぇと……つけ睫も変えるか？　いつものと雰囲気を変えないとヤバいよな）
　そこまで考えて、レオンはどうして自分から危険な目に遭いに行ったのかと頭を抱える。
　『あのこと』は、絶対に――幼馴染以外には秘密で通したいのに。
「……バレなきゃいいんだよな、うん」
　ワカメ頭に見劣りするだなんて言われて、黙って引き下がれるものか。レオンは気合いを入れて、ジュリエットの準備をすることにした。

　障害物その３『ジュリエットの美を守れ！』は、泥の沼地。もちろん、ロミオはジュリエットを抱えたままだ。
　先の障害物ですっかり疲れ果てた頃に現れる、足場の悪い障害物。しかも、やっとの思いで抜け出た時には、ジュリエットにかかった泥の分量に応じて、重りのプレゼントまであるという。
　ようやく人並み程度の体力を実感出来ている八神修にとって、人を運びながら障害物競走をクリアする自信があるわけではない。けれども、七夜あおいをゴールへ連れて行くという覚悟ならばある。
（心配していてもはじまらない。天命は人事を尽さないと来ないもんな）
　一番体力を使いそうな障害物は、やはりこの泥の沼地を歩くものだろうか。今の時期ならギリギリ砂浜で練習ができるかもしれない。……風邪とクラゲには、気をつけないといけないけれど。
　隣の教室を訪れて、５時間目の準備をしているあおいの姿を確認すると、修は廊下から声をかけた。
「あおい！　体育祭のことだけど……少し練習に付き合ってもらえないかな？」
　本番でスマートにエスコートするところだけを見せたいけれど、高望みをすれば足元をすくわれる。確実を目指すからこそ、格好悪いところを見せるのを嫌がってはいけない。
「もちろん！　私も守られるばかりじゃなくて、協力しあえるように練習しなくちゃね」
　廊下まで駆け寄ってくれたあおいに感謝しながら、お互いに都合の合う日取りを改めて放課後に話す約束をしたところで、予鈴が鳴る。
　手短に用件だけで済ませられるように、それを狙ってこの時間に来たけれど。修は少しだけ、名残惜しく思うのだった。

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