【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　息も絶え絶え、鷹取洋二がゴールへ近づく。滝原レオンも懸命に腕を伸ばし、この苦行から解放してやりたかった。
「芸術科、星ー！　もうちょ……いや本当にあとちょっと……！」
　レオンの声に、初瀬川理緒も懸命に腕を伸ばす。
　どのくらい先に、どのくらいの高さにバトンがくるかわからないので、受け取る方も必死だ。
「おい鷹取！　もうちょい男見せろ！　うぁあ右にズレろ、どこ行く気だ！」
　足音は近い。待っているのは、こんなにももどかしい。
　自分と違って控えめなところがある彼女は今、どんな気持ちで待っているだろう。
「取った！　紗月、信じてるからお願いねっ！」
　佐和崎紗月はびくり、と肩を震わせ、目隠しをしているはずなのに真っ直ぐ見ているかのような理緒の声に、それだけで安堵から泣きそうになる。
　下を向いてはダメ。目をそらしていてはダメ。
　自分から声を上げて、手を伸ばさなければ――掴めるものも、手からこぼれ落ちてしまう。
「理緒ちゃん……！　真っ直ぐだよ、大丈夫だよ」
　何十回と思い直して、何百回と自分で言い聞かせるより、よっぽど彼女の一言が効く。
　紗月は祈っていた手を解いて、奮い立たせるように両手を握りしめた。

　第一走者ではジュリエットも務めた七夜あおいは、ロミオに扮してみてその苦労を一身に感じていた。
（見えるものが見えないって、こんなに怖いんだ。そんな中を、修くんは頑張ってくれたんだね）
　一緒に泥の沼地を抜ける練習はしたけれど、砂浜は障害物なんてなかった。こうして手を突っ張って、鴻上彰尋の声を頼りに進まなくてはいけないほど困難な道もなく、ただただ応援するばかりだった自分が、どれほど役に立てただろう。
（大丈夫、ジュリエットが何を伝えたいかは、私が一番知ってるはず！　彰尋くんと一緒に、普通科のみんなが喜ぶ結果を出さなきゃ）
　よし、と気合いいを入れて進む様子を、彰尋は心配しながらも見守るように指示を続けた。

　泥だらけの衣服から着替えるために更衣室に来ていた恵御納夏朝は、膝に赤みがあるものの擦り傷もなくホッとしていた。
「夏朝ー？　ほんとの本当に大丈夫なの？」
「大丈夫！　……もしかしたら、筋肉痛にはなっちゃうかもだけど、怪我はしてないよ」
「それならいーんだけど」
　口ではそう言っても、犬杜初はどこか不満げだ。
　何か、気に触ることをしただろうかと、叱られた子犬のように様子を伺ってると、初は渋々口を開いた。
「今日は、体育祭なのっ！」
「う、うん」
「ういは、このリレー……ちょっと変わってるなと思ったけど、夏朝に誘ってもらって楽しみにしてたの！」
「ありがとう……？」
「夏朝、ういに気を遣ってばっかりな気がする！」
「えええ!?　そんなことな……いや、気を遣ってないってことじゃなくて、遣ってはいるけどそうじゃなくて」
　突然の初の癇癪に慌てつつ、夏朝はどう説明したものかと頭を悩ませた。
「このリレーでの僕は初ちゃんのロミオだから。そうありたいと、頑張ってた……のかも」
　えへへ、と笑う夏朝に毒気を抜かれた初もつられて笑う。
　頼り頼られ、もう少し『友達』を意識出来る競技かと思ったが、まあ今回はロミジュリなので。
「格好良かったよ、夏朝のロミオ！」
「……！　初ちゃんのジュリエットこそ！　……この後もお互い、楽しもうね！」
　リレーが終われば、別々のチームだけれど。それは、敵になるんじゃなくて、友達として遠慮なくぶつかりあえる瞬間。
　楽しい体育祭になるように願って、夏朝は今日１番の笑顔を見せた。