【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

「うぐっ!!」
「……っ！」
「ひっ……ぅ」
「もがっ!?」

　またどこかのうっかりさんのおかげで、最終走者のパンは全てわさび入りとなったようだ。
　そのおかげで、差がついていたチームもジュリエットからの指示が途絶えて脱線しかけたりとロミオの進路に混迷がみられる。
　辛さを物ともせず、先を急ぐのは七夜あおいと鴻上彰尋だ。
　元々、わさびを引いても演技で乗り切ろうと思っていた彰尋は、それに加えてわさびは苦手ではない。最初の一口目こそ、驚きで声が出てしまったが、わさびがくると思っていたのでそう大きなダメージはなかった。
「彰尋くん、大丈夫？　他の子の足音が聞こえないんだけど……」
「どうやら、今回は全部わさび入りだったみたいだね。アンカーらしい仕掛けというか、なんというか――」
「きゃああああああっ!!」
　悶え苦しむジュリエットの中で、次に誰が動き出すかと皆が見守っている時、一段と大きな歓声が沸いた。
　卵城秘月と吉住志桜里が、競技の途中でキスをしはじめたのである。……とはいえ、これはパフォーマンスの一種のフリだ。
　どんなパンでも根性で乗り切ろうと思っていた志桜里が、一気に飲み込むという荒業を繰り広げたため、わさび菜のジョロキアソース和えの辛味が口の中で暴発したのだ。志桜里は顔に出るツラさを誤魔化し、審査員に止められぬよう、パフォーマンスで乗り切ることにしたようだ。
　元々、秘月の視界は塞がれているので、身体で顔を隠すようになってもコースを進むのに何の問題もない。あとは、志桜里のポーカーフェイスが出来上がるまでの時間稼ぎになればいい。
　ポーカーフェイスが得意と言えば、椎井莉鳥だ。普段から感情が表に出ない莉鳥なら、多少の辛さであればやり過ごすだろう、と北里雅樹は指示を待った。パンを取り終われば、背中を２回叩くはず――しかし、一向にその合図は来ない。
「椎井、大丈夫か？」
　周囲からも、どうにか堪らえようとするうめき声が上がっている。盛り上がっていた歓声も不穏な色を帯びていて、多数のハズレがあったのではないかと推測するが、莉鳥は黙ったままだ。
（辛いものは平気なはずだけど……限度を超えたか？）
　ありうる。借り物競走で島中を走らせるような学校だ、十分にありえる。
「なあ、椎井――って！」
　バンバンッと勢いよく背中を２回。走れの合図だ。パンを咥えているから喋れないというより、心做しか体を支えるためにしがみついている手が力んでいるようにも感じる。
「おい、本当に大丈夫か？　椎井、どうした？」
「……さっさと……さっさと行って！」
　ギリッと肩に指が食い込むのではないかというほど圧をかけられ、彼女に余力が無いことを知ると、雅樹は慌てて駆け出した。

「ごめんね、理緒ちゃん……」
「謝ることなんてないわよ、無理させたら体育祭も楽しめないし」
　ちぎりパンを選択したおかげで大きな被害を出さずに済んだが、佐和崎紗月は２口以上食べることが難しく、初瀬川理緒の配慮もあって走り直しを選んだ。
　再スタートといっても、合流したあとのパン食い競走のエリアからだ。同じように辛さに根を上げてやり直しになるチームもあり、まだまだリレーとして頑張れる。
（次は、辛いものを引いたって頑張らなくちゃ）
50mほど走り、やっとパンの元へと帰ってきた。もう泥の沼地に着いたチームもいるだろうか？　気になるけれど、目の前の障害物からこなさなくては。
「最初に地雷踏んだから、次はベタ甘のパンが当たるかもよ」
　気負わず、恐れず。そんな励ましを胸に、紗月は次のパンを選んだ。

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