【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

「あおいさん、真っ直ぐ！　５歩先、右手に気をつけてっ！」
　広がらずに真っ直ぐ声を飛ばすのは、演劇でも基本技。鴻上彰尋は女性の多いアンカーの中で特に声が目立ち、七夜あおいに届けることができた。
　時折、接触を心配してか慌てた指示が言葉足らずに飛んでくることもあったが、ジュリエットを経験したあおいは注意を向けるべき対象を把握し、怪我もなく最後のドラム缶をクリア。
　無事に合流も果たした今、彰尋は無事にお姫様抱っこをされている。
「あおいちゃん、かっこいい～っ！」
　なるべく体重が負担にならない様に上体を起こせば、視界確保もできて会話もしやすいと考えたのだが――この体勢、意外と顔が近くて恥ずかしい。
「似合うぞ鴻上ー！」
　応援というか、一部笑い声が混ざっているような気もするが、深く気にしては負けだ。野次が飛ぶのは、役になりきれてない恥ずかしさが滲み出ているからだろう。役者を志す彰尋は、自分の力量を改めて実感しながら、集中できない要因の一つである言葉を思い出した。
（まさか、ロミオがやりたいって言われるとは……）
　直線に来て、指示が少なめで済むと、ついつい考えてしまうこと。是が非でもロミオ役をやりたかったわけではないが、やはりあおいの可愛らしさからはロミオのイメージはつかず予想外で――いや、単に自分が運んであげたかっただけかもしれない。
　動揺していると、あおいへの指示が疎かになる。いつか笑い話に出来るように、彰尋は暫し雑念を追い払った。

　初瀬川理緒の胸に持たれるようにして、横抱きで運ばれる佐和崎紗月は、服装のことも相まって夢見心地だ。
　今は理緒の目となり頭となり、どのパンを選ぶか考えなければならないが、不安がなくなった今は、甘えていたい気持ちもある。
「紗月って、辛いものが苦手よね？」
「うん、そうだけど……？　見分けるコツでも思いついたの？」
　むしろ、わさびどころかハバネロなどを普通に入れていそうだと思ったことなど言えない。
「……あたしと一緒に楽しいことをしている、と想像して。そうしたら、どんなパンも甘くなるよ」
「そんなこと考えてたら、恥ずかしくてパンを食べれないよぉ……っ」
　近くから理緒の囁くような小声が聞こえるだけでもドキドキするのに、想像の中とはいえ大口を開けているところを彼女に見られたくはない。かといって、小さな口でちょこちょことちぎって食べるわけにもいかない。
（そうだ、ちぎりパンみたいなのなら、きっとミルク味で食べやすいかも）
　一度に食いちぎって走ることは叶わないが、これなら中身が何であれ対応しやすいだろう。紗月は辺りを見回し、ちぎりパンの元へと理緒を誘導した。

　一見普通そうに見えるパンが地雷とみて、敢えて変わった形のパンを攻めてみる作戦にでたのは、椎井莉鳥だ。
　腐っても幼馴染、北里雅樹と息を合わせることは苦ではないのか、目当てのパンまでの移動も比較的スムーズだ。
「そのまま、背中を２回叩くまでじっとしてて」
　莉鳥が狙いを定めたのは、サンマさんパン……よりやや小ぶりの魚型のパンだ。アジだろうか？
　細長く、厚みもそこそこ程度のこのパンであれば、中身がなんであれぎっしり詰まっているとは考えにくい。これならばと狙って口を開く頃――
「あれ、ここにあったハズレパン、どうしたんですか？」
　最終レースの準備を終えた体育祭実行委員の一人が、片付けようと思っていた予備のハズレパンが無いことに気づいた。
「え、そこにあったのハズレなの!?　最後くらいは、ハズレはなしでリレーを盛り上げるって委員長が……」
　また、あのお騒がせ男がやってしまったのかと実行委員たちは溜息を吐く。いや、そんな場合ではない。本当にコースへ並んでしまっているのなら、大勢の犠牲者が出てしまう。
　実行委員たちは慌てて審査員の元へたくさんの水を届けに走った。

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