【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　芸術科の星チームは３位でバトンを受け取り、泥の沼地を前にして４位を維持している。
　滝原レオンは、鷹取洋二に宣言したとおり、男だと知らぬ者が横を通れば振り返るほどの美少女となった。
　衣装はコスプレ部の仲間から、体育祭のためだと頼んで、アレンジしたり汚してもいい衣装を譲り受けた。
　ぬいぐるみを作るほど手先が器用で裁縫が得意なレオンにとって、サイズ合わせも兼ねたアレンジは造作もなく、メイクも『いつもの休日』よりは若干垂れ目気味にアイメイクを作り込み、思わず守りたくなるような可愛らしさを目指した。
　髪も、セミロングのウィッグをサイドローでまとめ、トリリンパでふんわりとボリュームをだした。
　これで趣味もバレず、競技に合わせた美少女にもなり、洋二に打ち勝つことができたと思っていたのだが――当然ながら、洋二は目隠しをしている。
　着替えた直後も、自分の中世ヨーロッパの貴族をモチーフにしたとかいう衣装自慢に終わり、魅了することは叶わなかった。
　その前を進むのは、恵御納夏朝と犬杜初だ。４位でバトンを受け取ったはずが、パンでハズレを引くこともなかったため、堅実な走りで現在は３位。そこでようやく、レオンは洋二の異変に気づいた。
「おい鷹取大丈夫か？　フラフラだぞ？」
　いくら体育会系でないとはいえ、小柄な少女に追い越されるだろうか？　考えてみればレオンは身長180cmを超えた大男。それをトラック１周担げというのが無理な話だ。
　夏朝は懸命に、一歩ずつ確実に歩み進めている。それに対して洋二は不安定なことこの上ない。
「そのまままっすぐ……あ、ちょっと右にずれろ、ぶつかるぞ」
　そんなやり取りが聞こえ、初は振り返る。接触の不安は無さそうだが、念の為夏朝には左に避けてもらい、可能な限り速度を上げて振り切ってもらう。
　レオンも、上位でのゴールより安全に渡り切ることを優先に考え指示を出すが、洋二は聞こえているのかいないのか。あっちをフラフラこっちをフラフラとよろめいている。
「ちょっ、鷹取踏ん張れ！　諦めんな……あー!!」
　――ばしゃんっ!!
　大きく跳ねる泥の音に、夏朝はおぶっている初の足をぎゅうっと抱きしめるように、支える腕に力を入れる。
　しかし、あまりにその音が大きかったのか、びくりと震わせた体はよろめいてしまう。
「わ、わ……わぁっ!?」
　バランスを取るために大きく１歩。踏ん張りきれなかった片足だけ崩れ、泥の中についてしまった。
「ひゃああっ！　ご、ごめんっ！　初ちゃん!!」
「だいじょーぶだからっ！　見えてないから酷く思うだけだって」
　視覚が使えない今、情報は初の指示と自分の聴覚。触覚は泥に浸かっているせいか、足元は過度に集中してしまうのかもしれない。
「ぐっ……、ふっ、んう……！」
　進まなければ。そのためには立ち上がらなくては。
　初を落とさずに、ぷるぷると震えながら立ち上がろうとする夏朝にハッとして、初は制した。
「夏朝、無理に立ち上がらなくて大丈夫だよ！　四つん這いでも渡りきったらセーフだったもん」
「そ、そうなの？」
　八神修が泥の沼地に差し掛かる時、準備のために目隠しを付けられていた夏朝は、友人のゴールを見届けることができず、その攻略法を知らなかった。
　見えないからこそ、周りはみんな『立って』進んでいると思い込んでいたのだ。
「進む時にジュリエットを持ち上げていないといけないだけ。持ち上げる方法にルールはないよ」
「よし、それなら……！　初ちゃん、ありがとう」
　両膝をつけて、泥の中をするように歩く。
　少し膝が痛いけれど、転倒することを考えれば、これくらいなんてことはなかった。
　これでもう、ぬるぬるした底面も怖くない。夏朝はしっかりと初を支えて進み始めた。