【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

「おい、兄貴？　……どうした？」
「……大丈夫、まっすぐ進んで」
「は？　まさか、ハズレ……」
「すっごくたー坊へオススメのパン引いただけ☆……ゴッフゴフ」
　甘さの混ざった油分が口内にまとわりつく感触、喉が焼けるような乾き。鼻から抜ける空気でさえ甘ったるく、流し込むこともできない現実にクラクラする。
「もしかして……いや、胸焼けするだろうし……名前は言わない」
「たすかるぅ☆　ううっ、コーナー入るから、ちょい左ぎみでね」
　ミルクとホワイトのWチョコに、カスタードとホイップのWクリーム。さらにジャムまで添えられて５色パンとなったそれは、大きさの割にずっしりと重たく糖分の爆弾だ。
　今にも食いちぎれそうだったので飛びついたまでは良かったが、まさかこんなにも中身が充実したパンだと思わず、甘いものが苦手な武道は、ただひたすらゴールをして口をすすぐことを夢見ている。
「さぁ、俺が無事なうちに、ゴールにつれてってねたーぁ坊☆」
「……無理、するな」
　つい先程まで、「お祭りごとに本気な姿勢、俺大好き！」などとはしゃいでいた様子は影を潜め、武道はすっかり大人しくなってしまった。

　そんな様子を数歩離れた場所で見ていた神野美野梨とブリジット・アーチャーは、彼らが何らかのハズレを引いたことだけはわかった。
「ブリジットさん、どんな様子でパンに向かったか見えた？」
「あれ、と決めて向かったようにも見えたけど、見た目でわかるものかしら？」
「見た目じゃなければ、香りとか……？」
「どちらにせよ、その予想がハズレてああなったのだろうから……やっぱり運を天に任せるしかないわね」
　ロミオとジュリエットと言えば、やはり毒。『ジュリエット殺人事件』では、ジュリエットの存在が重く感じ、嫌気がさしたロミオが第一発見者を装い刺殺にしたが、探偵に「どうして毒殺にしなかったんですか？」と尋ねられるシーンがある。
　それを差し引き、原作で毒をくらう二人なのだから――。
「……どっちが選んでも、ワサビ入りを当てそうね」
「ブリジットさん、不穏なことを言わないで……」
　考えてもはじまらない。ブリジットは、一番近くのパンに狙いを定めて、かぶりつくことにした。

　恵御納夏朝と犬杜初も、安定した走りを見せて３位で健闘している。
　アリス姿の初と合わせれば、夏朝は時計を片手に慌ててそうな白ウサギに見え、ほのぼのとした優しい空気が漂っている。
　目隠しに人を担ぐという状態では、決して速くはないのだが、だからこそ堅実に進むことで順位を上げていった。
「もう少しでパンだよ、止まれる準備して！」
「うん！」
　急ストップで体勢を崩すことのないように、初の指示を信じて速度を整える。
（一緒にパンを覚えたし、きっと初ちゃんに任せて大丈夫……）
　それでも、カレーパンのことを思い出すと、口の中がヒリヒリしてきそうだ。
「左に５歩、前に３歩！」
「わかった！」
「あったよ、ミトン型！」
　二人で一緒に覚えた当たりパン。まあるくて黒ごまが乗ってる粒あんぱん。グローブのようで切り込みが２つなのがクリームパン。ハートだったりミトンだったりする、切り込みが１つなのは――。
「それだっ！　いちごジャムパン!!」
　上体を伸ばし、初は必死にパンへ食らいつく。バランスを崩さぬように、夏朝も踏ん張ることに必死だ。
　ひょいひょいとパンは逃げ惑うが、ここで時間をロスしても大丈夫。絶対にこれは、ハズレじゃない。
「ほった！　んぐ……」
（ああでも、ジャムパンにわさびが仕掛けられていたらどうしよう）
　やっぱり、ちょっと大変だけど初とジュリエットを変わるべきだったろうか。夏朝は初とパンを落とさないよう、ゆっくりと前に進みながら、どうか初がつらい思いをしていないことだけを願った。
「……ぷはっ。夏朝、走れっ！」
「任せて！」
　勢いよく食べたせいか、初はせっかくのいちごジャムパンの味がよくわからない。
　ただ、酷い目に遭ったはずのカレーパンも悪くはなかった気がすると、思い出し笑いをした。