【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～｜リアクション

【体育祭2nd】学科対抗リレー～あなたはどうしてロミオなの～

　御巫時子の的確な指示で普通科アニマルチームがパンの近くまでくると、１位だったはずの芸術科アニマルチームが右往左往している。第二走者がハズレを引いたことで、慎重になっているようだ。
　困ったような時子の溜息に、五十嵐尚輝は歩みを止めた。
「御巫さん、どうされました？」
「ぶつからないように進みたいのですが、混み合っていて……」
「困りましたね。端のほうならどうでしょう？」
「はい、それなら大丈夫そうです。では、もう少し右に……」
　パンを選べたほうが、尚輝に走り直させることもないだろうとは思うも、このまま立ち止まっているわけにもいかない。
　コースの１番端にあったパンの前に到着し、あとは尚輝に微調整を頑張ってもらいながら体を伸ばすだけ――そんな時、尚輝の頭にちょこんと止まった小鳥がチチチッと鳴き始める。彼のろっこんが発動した、というわけでも無さそうだ。
（なんて言っているか聞いてしまうのは、いけないことだと思いますし……でも、こんなに必死そうですから）
「尚輝先生、申し訳ありません。隣のパンにしてもいいですか？」
「それがいいかもしれませんね。なんとなく、そんな気がします」
　尚輝と意見が一致したところで、隣に移動。そのタイミングで、芸術科アニマルチームが先程まで時子たちが狙っていたパンへ突撃してきた。人が見ている物ほど、良いものに見えたのかもしれない。
「きゃっ!?」
　かろうじて接触は無かったものの、その勢いに驚き時子は尚輝にしがみつく。
　衝撃によろめいたものの、尚輝はなんとか踏ん張った。
「おっと、大丈夫ですか？」
「はい……すみません、先生」
「いえ、無事ならいいんです。さあ、パンをお願いしますね」
　美味しいパンに当たるよう願いつつ、時子は今度こそパンに向かって口を開いた。

　富士山権蔵と響タルトがパンの元にたどり着いた時、そこには無残に転がる芸術科アニマルチームがいた。
「どっ、どうしたの！？」
「人が手を出してはいけない領域の辛さに、ジュリエットが……！」
（ええ～、ちょっとわさびが入ってるって感じじゃないのか……）
　学校は本気だ。
　けれど、見た目や匂いじゃ区別もつきそうにない。
「ある意味での大当たりは出ちゃったし、もう平気かな？」
　タルトは改めてコースを確認する。
　紐だけになっているところも数えると、６人の走者に対し、パンはコースを少しはみ出し元々８個ぶら下がっていたようだ。
　これでは、わさび入りが残っていてもおかしくないだろう。
「ええい、あれだ！　フジコちゃん、左！」
　残り福を信じて、パンにかぶりつく。醤油の香り、しゃきっとした歯ごたえ……きんぴらごぼうがはいっている。
　なぜパンと合わせたのかはわからない。甘じょっぱい中に、時折唐辛子のアクセントはあるものの、まだ大丈夫――。
「んっ、んんっ!!」
　きちんと混ざっていなかったのか、唐辛子の塊にあたってしまい、タルトは咽てしまう。
　審査員の厳しい目が向けられ、走り直しになるかと思われたが、権蔵は動じずに、そして伏し目がちに息を吐いた。
「……萌えね」
「…………？」
「突如襲いくる、制御できない感情。そう、ずっしりと構え甘やかしていると思っていた餡を優しく包み込んでいた真のスパダリはパンだったと気づいたのね！」
「あんことパンの掛け算？　その発想はなかったよ！　うん、胸が熱くなるね！」
　もう、一時的な辛さなど吹き飛び目がランランとしてきたタルトに怖いものなどない。
　トークに白熱するためにさっさとパンも食べ終え、権蔵も巨体を活かしてどんどん歩幅を稼ぐ。
「さあ、芸術科の反撃だよっ！」