＜零神探訪＞ぬばたまの絶対零秘史（ブラック・ヒストリア）｜リアクション

＜零神探訪＞ぬばたまの絶対零秘史（ブラック・ヒストリア）

●海の中

　どぼん、と海中に沈んだ黒い塊を、カワウソが鼻先で押し上げてゆくのを見た。
（みんなも頑張ってる）
　人魚姿の小山内海は懸命に尾を振り泳ぐ。
　海の上は大荒れだが、海中は嵐の影響を受けず泳ぎやすかった。
（朝鳥さんや刀くんが怪魚の数を減らしてくれたのは有難かったよ。海入道は新田くんがやっつけてくれたし）
　物体を加速し射出できる＜アクセラレイトライン＞というろっこんはあるものの、海自身は本来、戦闘向きのタイプじゃあない。
（まばらになったとはいえ、牙を剥いて泳ぐ怪魚の残党には充分気を付けなくちゃ）
　海はできるだけ海底近くを珊瑚や岩場に身を隠しながら進んでいく。
（思えば、ほんとに遠くまで来ちゃったよね……）
　紅き異国へ、幽玄の地へ、森の中の遺跡へ、北極へ……そして今、過去へ。
　拾い集めた小石や貝を腕に抱いて、海は泳ぐ。
（相手は神様だけど、所詮、木で出来た舟。船底に穴をあけちゃえば沈められる）
　虚栄心の働きで水夫たちが役立たずになっていたため、海中から見た舟底は動かぬ的のようなもの。
　海は波間から顔を出し、空中に線を引くや、＜アクセラレイトライン＞で小石をラインに乗せる。
　残っている舟は六隻。最後尾に大将、絶神が乗っているなら、最終的にはその舟を狙いたいが、密集していて狙いにくい。となれば、まずは手前から。
（いっけえ！）
　海の＜アクセラレイトライン＞の強みは、進化能力で線の軌道を変化させられることだ。
　射出した小石の軌道を海中へ。舟の喫水線の下へを導く。

（ごめんね。撃沈、させてもらうよ）

　弾頭こそないものの、小石はまるで極小魚雷のように海中を進撃し、喫水下に命中！
　その穴は小さいものの、水が入り込むには充分だ。
　そして、今の絶神船団の水夫たちに穴を塞ぎ水を掻きだす気力と余力が残っているかと言えば……。
　その答えは、ノー！
「あああ」
　言葉にならぬ声を上げ、舟は傾き沈んでいく。水夫たちはそこから泳ぎ離れるだけで精いっぱいだ。

「小山内か、やるな」
　新田亮は海の働きに感嘆し、自分も海底の石を拾い上げる。
　それは小石というレベルではなく、ふだんの亮なら持ち上げることも叶わないような岩に近い石だ。
　岩に張り付いたフジツボの殻が手のひらにチクチク痛いが、我慢して持ち上げ、海が船底に穴をあけてじわじわ沈みつつある舟に投げつける。
　岩は着水の瞬間、高い水しぶきを上げ、舟を大きく破損させた。
「一丁上がり！」
　　
　刹那、空気を震わせるほどの咆哮が、海霧＝心の中から高く上がった。

グォォォォォォ！！！

（なにこれ）
　心は霧として拡散していられなくなり、船団から離れ、人の形に寄り集まる。
　そうして心が見たものは、身を高く膨らませた黒き狼神の姿であった――！