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今宵の月も
【灰色世界】今宵の月も
足元を埋めるは波紋描いた枯山水。月の色を写し取ったが如き白砂に視線を走らせたその先、静かに佇んでいたのは正に己が『写し身』とも呼べる、己と同じ外見をしたナニカ。
濃紺が埋めるばかりの夜空にはぽかりと浮かぶ満月、水面を象った庭を囲むは影絵の色に霞んだ松竹梅。
「……あー、ドッペルだかトーテムだか知らない分身さん？」
まるきり己の口調で語り掛けられ、吉住 志桜里は檜皮色の瞳を剣呑に細めた。利き手とは反対の手に持った刀の鞘を無言に見下ろす。
相手の手にも、刀がある。
「おっと抜いたわね」
同じ顔で朗らかに笑う相手を睨めつければ、相手は小さく肩をすくめた。
「仕合にしましょっか」
己と同じ所作で刀を抜き放ち、無造作に鞘を白砂に捨てる相手を志桜里は見つめて笑う。
「短気ね」
「お互いにね」
何が原因で自分の分身と戦うことになったのかはまるで分らないものの、相手が自分自身であるがゆえに相手の考えは容易く読める。
(ってコトで)
対峙した相手が同じことを考えていると読み取りつつ、それでも志桜里は地を蹴る。
(殺っちゃうわ)
同じ動作で刀身に刀身を叩きつける。高く響く金属音と共、月の光を爆ぜさせた二振りの刀身は鎬から同時に折れた。闇を切り裂き二筋の弧を描く刀身に微塵も動じず、ふたりは残った刀身を打ち下ろす。互いに互いの鎖骨目がけて鋭い打突を放つ。
息ぴったりの剣舞が如く、ふたりは同時に跳び退る。
「これは」
「見事な写し」
ふたり声を揃えて笑い、折れた刀を足元に投げ捨てる。
(分身と素手ゴロなんてぞっとしない話)
己と同じ顔に拳がめり込む瞬間を思い描き、志桜里は勝気に笑んだ。
鏡映しの笑みを浮かべる相手も、きっと同じことを考えている。
刹那のずれもなく全く同じ動作で白砂を互いに向けて蹴り上げる。互いの動きが読めるからこそ砂を振り払うと同時に距離を縮める。急所を的確に潰そうとする拳も同じ、相手の死角から放つ蹴りも同じ、結い上げた髪を掴もうとする指も同じ。喧嘩殺法は言うに及ばず、一挙手一投足までも同じということは、
(ろっこんも同じって事、)
普段は柔和な表情でたおやかに丸め込んだ鋭い眼差しを、闘争心と気性の荒さを、今は隠すことなく剥き出しにしながら、志桜里は冷静に頭を巡らせる。
志桜里がその身に宿すろっこん『ウチデノコブシ』は、発動を念じて対象の生物に拳で三秒触れることで、生物の大きさのみを最小一寸にまで変化させる。すなわち、
(打ち合いはしても組み合いはまずい)
互いに三秒拳を合わせてしまえば、それは、
(真っ当にマッドな相互確証破壊、)
ここのところ身を入れているラップじみて心に歌い、志桜里は唇を笑みのかたちに歪める。
(共に縮めば最高に泥仕合)
それはおそらく、相手も承知の上。全く同じ攻撃を同時にぶちかましながら、両者はろっこんだけは仕掛けない。
(でも自分の思考を守っちゃ勝てない)
相手の思考を読みつつ、志桜里は大きく跳び退る。視界の端に折れて地に落ちた刀身を捉える。
(倒す鍵はつまりオリジナリティ)
相手を見据え、自身の胸に拳を押し当てて三秒。あえて己にろっこんを発動させようとして、
(……っ、)
初めて気づいた。対象を必要とするろっこんは己自身には作用しない。
(ならば！)
躊躇なく志桜里は駆ける。おそらくは僅かに遅れて同じことを思いついただろう相手が己の胸に拳を押し当てる瞬間を狙い、己が身を割り込ませる。
「な、……っ！？」
己と同じかたちした目を瞠る相手に笑みかけると同時、相手の力を強引に借りた格好で身が縮んだ。身の丈僅か一寸となった志桜里に向けての相手の行動は、それが己であるがために読めている。
(小細工を弄したところでお互い結局脳筋)
うまく行かないときの最終手段が根性と力任せなのは悔しいくらいに理解
している。
白砂を巻き上げてこちらの目を眩ませながら、相手が二十七センチの摺り足で轢き殺しにかかる。巨大な足裏が迫るも、志桜里は己からそこに飛び込む。踏み潰されるのが一瞬遅れるはずの土踏まずへと潜り込む。砂に沈み込む足裏に僅か一寸の身が圧されるも、足裏の圧力は分散する。秒で潰すには至らない。
「ッ……！」
体重を掛けられ軋む身体にも構わず、志桜里は相手の足裏に片方の拳を押し付ける。
(三秒！)
相手の身を縮め、縮んだその身に一寸の全身全霊で回し蹴りを叩きこむ。狙いを定めて振り抜いた足の向こう、相手が吹き飛んだ先に待ち受けるのは──折れた刀身。
月の光を凶暴に滾らせた刃に相手の身が切り裂かれる。血煙が月下の白砂にくゆる。
勝負ありと踵を返す志桜里を、相手が呼んだ。振り返る志桜里に向け、相手が血塗れの拳を差し出す。
互いに互いの拳を合わせ、互いに掛けたろっこんを解除する。そうして、拳を交わし合ったふたりは最後に短く笑みをも交わし合った。
濃紺が埋めるばかりの夜空にはぽかりと浮かぶ満月、水面を象った庭を囲むは影絵の色に霞んだ松竹梅。
「……あー、ドッペルだかトーテムだか知らない分身さん？」
まるきり己の口調で語り掛けられ、吉住 志桜里は檜皮色の瞳を剣呑に細めた。利き手とは反対の手に持った刀の鞘を無言に見下ろす。
相手の手にも、刀がある。
「おっと抜いたわね」
同じ顔で朗らかに笑う相手を睨めつければ、相手は小さく肩をすくめた。
「仕合にしましょっか」
己と同じ所作で刀を抜き放ち、無造作に鞘を白砂に捨てる相手を志桜里は見つめて笑う。
「短気ね」
「お互いにね」
何が原因で自分の分身と戦うことになったのかはまるで分らないものの、相手が自分自身であるがゆえに相手の考えは容易く読める。
(ってコトで)
対峙した相手が同じことを考えていると読み取りつつ、それでも志桜里は地を蹴る。
(殺っちゃうわ)
同じ動作で刀身に刀身を叩きつける。高く響く金属音と共、月の光を爆ぜさせた二振りの刀身は鎬から同時に折れた。闇を切り裂き二筋の弧を描く刀身に微塵も動じず、ふたりは残った刀身を打ち下ろす。互いに互いの鎖骨目がけて鋭い打突を放つ。
息ぴったりの剣舞が如く、ふたりは同時に跳び退る。
「これは」
「見事な写し」
ふたり声を揃えて笑い、折れた刀を足元に投げ捨てる。
(分身と素手ゴロなんてぞっとしない話)
己と同じ顔に拳がめり込む瞬間を思い描き、志桜里は勝気に笑んだ。
鏡映しの笑みを浮かべる相手も、きっと同じことを考えている。
刹那のずれもなく全く同じ動作で白砂を互いに向けて蹴り上げる。互いの動きが読めるからこそ砂を振り払うと同時に距離を縮める。急所を的確に潰そうとする拳も同じ、相手の死角から放つ蹴りも同じ、結い上げた髪を掴もうとする指も同じ。喧嘩殺法は言うに及ばず、一挙手一投足までも同じということは、
(ろっこんも同じって事、)
普段は柔和な表情でたおやかに丸め込んだ鋭い眼差しを、闘争心と気性の荒さを、今は隠すことなく剥き出しにしながら、志桜里は冷静に頭を巡らせる。
志桜里がその身に宿すろっこん『ウチデノコブシ』は、発動を念じて対象の生物に拳で三秒触れることで、生物の大きさのみを最小一寸にまで変化させる。すなわち、
(打ち合いはしても組み合いはまずい)
互いに三秒拳を合わせてしまえば、それは、
(真っ当にマッドな相互確証破壊、)
ここのところ身を入れているラップじみて心に歌い、志桜里は唇を笑みのかたちに歪める。
(共に縮めば最高に泥仕合)
それはおそらく、相手も承知の上。全く同じ攻撃を同時にぶちかましながら、両者はろっこんだけは仕掛けない。
(でも自分の思考を守っちゃ勝てない)
相手の思考を読みつつ、志桜里は大きく跳び退る。視界の端に折れて地に落ちた刀身を捉える。
(倒す鍵はつまりオリジナリティ)
相手を見据え、自身の胸に拳を押し当てて三秒。あえて己にろっこんを発動させようとして、
(……っ、)
初めて気づいた。対象を必要とするろっこんは己自身には作用しない。
(ならば！)
躊躇なく志桜里は駆ける。おそらくは僅かに遅れて同じことを思いついただろう相手が己の胸に拳を押し当てる瞬間を狙い、己が身を割り込ませる。
「な、……っ！？」
己と同じかたちした目を瞠る相手に笑みかけると同時、相手の力を強引に借りた格好で身が縮んだ。身の丈僅か一寸となった志桜里に向けての相手の行動は、それが己であるがために読めている。
(小細工を弄したところでお互い結局脳筋)
うまく行かないときの最終手段が根性と力任せなのは悔しいくらいに理解
している。
白砂を巻き上げてこちらの目を眩ませながら、相手が二十七センチの摺り足で轢き殺しにかかる。巨大な足裏が迫るも、志桜里は己からそこに飛び込む。踏み潰されるのが一瞬遅れるはずの土踏まずへと潜り込む。砂に沈み込む足裏に僅か一寸の身が圧されるも、足裏の圧力は分散する。秒で潰すには至らない。
「ッ……！」
体重を掛けられ軋む身体にも構わず、志桜里は相手の足裏に片方の拳を押し付ける。
(三秒！)
相手の身を縮め、縮んだその身に一寸の全身全霊で回し蹴りを叩きこむ。狙いを定めて振り抜いた足の向こう、相手が吹き飛んだ先に待ち受けるのは──折れた刀身。
月の光を凶暴に滾らせた刃に相手の身が切り裂かれる。血煙が月下の白砂にくゆる。
勝負ありと踵を返す志桜里を、相手が呼んだ。振り返る志桜里に向け、相手が血塗れの拳を差し出す。
互いに互いの拳を合わせ、互いに掛けたろっこんを解除する。そうして、拳を交わし合ったふたりは最後に短く笑みをも交わし合った。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2019年07月13日
- 参加申し込みの期限
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- 2019年07月20日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2019年07月20日 11時00分
