さーさーさらさらさくさくさ。｜リアクション

さーさーさらさらさくさくさ。

◆曇天を背負って、淡々と。

　ドアベルが来客を告げる。
　客は雨を浴び、びっしょりと重たい灰色のレインコートを着ている女。
　エレノア・エインズワース。
　雨の重みか、彼女自身が醸し出す重みか、ずしり、ずしりと一歩が鈍重。
　言葉少なに紅茶とチョコレートケーキを注文し、毒島夫妻の隣のテーブルについた。
　当たり前のように隣の彼らを見ようともせず、緩慢な動きで窓の方を向いて独りごちた。
　
「鈍色に沈む雨景気……何てことのない日常の風景が幽玄の美に昇華される様は、いつ見ても飽きません」

　うっすらと唇に笑みが浮かぶ。手元に届いた紅茶がゆらりゆらりと彼女を映した。その後ろに他の影がちらつく。　

「あら、こんにちはエレノアちゃん」

　影の正体は空っぽの笑顔を貼り付けた常闇虚だった。
　袖が手首まである黒灰色のブラウスに白の長いスカートを身に付け、エレノアを舐めるように見つめる。
　エレノアに尋ねることなく、向かいの席に座った。

「あら、常闇さん。奇遇ですね」

　ほどなくしてエレノアが頼んだものと同じ……紅茶とチョコレートケーキが運ばれてくる。
　重なる偶然が沈黙を呼ぶ。

（やはりどことなく似ているようですね）
（彼女は虚にとっても可愛い子……とても、トテモ）

　周りの、主に隣の喧騒など呑み込んでしまうような静けさが二人の間にあった。
　カチャリ、とカップに触れる音も、お皿とフォークが擦れる音も。
　全てを消し去ってしまうような二人だけの間。

（期待してます。自分のイトしい存在になり得る何かがあると）

　常闇は音もなく笑った。

（ああ、私が食べたいのは……）

　沈黙。
　甘美な沈黙を常闇は堪能しているのだった。