さーさーさらさらさくさくさ。｜リアクション

さーさーさらさらさくさくさ。

◆人畜無害に、きらきらと。

（……助けた方がいいかしら？）

　早坂恩が近くの席の人々に視線を送る。
　芽守は逐一様子を書き留めていて相手にしない。
　花風は少年を気にかけながらも、震えている。　
　目線を合わせてお話すれば、怖がらないでくれるかもしれない。
　こんなことしちゃった理由、教えてくれるといいのだけれど。
　花風の漏れ聞こえる心の声。
　なんとか解決してあげたい。
　震えてはいるが、彼女はただその一心なのだ。

「大丈夫ですかっ!?」

　店の奥から荒井たちが駆けつけた。
　荒井と知吹が畑生を桜井から引き剥がし、宮島が桜井を起こし背中を叩く。
　なんとか桜井は息を吹き返し、宮島から布巾を受け取り顔を拭った。
　畑生は落ち着いたようで、白くなっている。

「僕は大丈夫？」

　荒井が少年の様子を伺うがぷいっと顔を背ける。

（困ってしまいますね……）

　荒井が少年の髪を撫でる。
　近くにあったクッキーを掴み、少年の口に入れた。

「……おいしー」

　ニカッと笑うと、欠けた前歯がチラリ。

（やはり、普通の子どもですね）
（お菓子食べてる姿、幸せそう）

　荒井は微笑み返した。花風も思わず笑う。

（きっと悪い子じゃないはず）

　少年を見る眼差しがよりやさしくなっていく。　

「皆行ってみない？」

　桜庭が腰をあげる。
　騒ぎが鎮火し、澪乃、六月一日宮をはじめほとんどの客がおずおずと近寄っていく。

（わ、みんな集まってきた。え、と。真ん中にいるのって、）

　嬉しそうにクッキーを頬張っていた少年の姿が澪乃の脳裏に浮かんだ。　

（まさか、あの子が強盗を？）

　衝撃だった。

「ど、ぞ……」

　澪乃の横を通り抜け、魂行が鞄の中からお菓子を取り出した。

「それはお客様がお持ち帰り用に買われた……」

　荒井は魂行を止めようとするが、魂行はガンとして動かない。
　少年もまったく接点のない魂行の行動を不審がる。

「私……凪」

　たどたどしい口調で懸命に話す。
　少年を指差し、にこりと笑った。

「お菓子……美味しい。笑顔で、食べ、たから」

　袋を開けクッキーを差し出すために、魂行はしゃがみこむ。
　少年もまた、クッキーをもらうために彼女に近づく。
　すると、しゃがみこんだ魂行のポンチョがめくれ上がってしまった。
　見えた。
　全部見えた。

「なっ！」

　まだまだ小さいが、少年も立派な男。
　顔を真っ赤に染めてのけぞった。
　彼が見たものがパンツならよかった。まだ、よかった。
　しかし、魂行は下着を着けていなかった。理由など少年は知る由もない。

「い、いらないっ！」

　その状況に対する困惑で少年は魂行を突き飛ばしてしまう。
　尻餅をついて、チラリ。

「あ」

　少年に悪意なんてない。
　それでも、見えてしまうものは仕方がない。　　
　その場にいた全員、目の前の光景を胸の奥にしまい込んだ。

（お話、聞きたかったんだけど……）

　気づかぬ当人は、少年の反応に疑問を抱きながらも、この先を見守るためにゆっくりと立ち上がった。