ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！｜リアクション

ふしぎ超特急『七ッ星』、しゅっぱつしんこー！

★氷の世界のエトセトラ（２）

「おお！　すごいんだぞ！」
　折り畳みタイプの椅子の上で、ロシィ・イシロは目をぱちぱちとした。
　いぬみんが、氷に開けた穴から見事ワカサギ……に似た魚を、何匹も釣り上げたのだ。
「みみみん！　本体さんも変身したし、もしかしてこれも、いぬみんパワーかな？」
　なんて言って、いぬみんは、えへへと笑みを零した。
　ロシィが、小人達と一緒になって、ちらちら光る魚をじぃと見つめる。
「このお魚、食べれるやつか？」
「食べれるんじゃないかな？　何だか、食べられそうな見た目だよね！」
「うん！　おいしそう！」
　いぬみんの言葉に、心から同意するロシィ。
　そしてロシィは、表情に乏しいかんばせの、その口元をキュッと引き絞った。

「ロシィも、お魚釣るぞ！　みんなで、いっぱい食べる！」
「そうだ！　食べられるお魚さんだったら、食堂車で揚げてもらうのはどうかな？」
　何せ、小さな魚はワカサギのお友達みたい。だから、
「衣をつけて、ふわって揚げたら、きっと美味しいんじゃないかなって！」
「衣をつけて、ふわっ……！」
　いぬみんの提案に、こくん、と、ロシィは喉を鳴らした。
　釣り竿を握る手にも、自然、力が入る。
「おおかみはいないみたいだけど……でも、ロシィはここ、楽しい！」

「わー！　可愛いー！」
　もふもふした生き物の子供を抱き上げて、犬杜初が黄色い声を上げる。
　その様子にふわと表情を和らげて、恵御納夏朝は猫パペットのハルくんを大きなもふもふの前へと向けた。
　興味津々、「それなぁに？」とばかりに首を傾げるもふもふ。
　夏朝は、ハルくんの口をパクパクとさせた。
「こんにちは、氷の世界の生き物さん。仲良くしてくれると、嬉しいな」
　ハルくんを通して自分の思いを相手に伝えれば、もふもふは「ぐー」と一鳴き。
　そうして彼（？）は、夏朝へとそっとふかふかの身体を寄せた。
「わ、ぬくぬくだ……！　それに、すごく人懐っこいんだね」
「だな。穏やかで友好的で、それに、触っていて気持ちがいい」
　夏朝の声に、一際大きな身体のもふもふを撫でていた犬杜一閃が僅かに口元を緩めて応じる。
「素敵な友達ができて、嬉しいな」
　と、夏朝は零し、もふもふを優しく抱き締めた。

「お別れしても、思い出は、心に残るから。ね？」

　梯子を上って、鴻上彰尋と七夜あおいは列車の上に並んで腰かけた。
「ここからだと、景色が益々素敵に見えるね」
　淹れ立てのコーヒーが入ったカップを両手で包み、あおいが言う。
　同じく、コーヒーをずずと啜って、彰尋はあおいの眼差しの先を追いかけた。
「うん。素敵だ。すごく」
　それは近く遠く見える神秘的な光景のことでもあるし、たぶん、傍らの人の笑顔のことでもあって。
「もっと向こうには、何があるのかな？」
「想像してみようか。例えば……お城があって、立派なダンスホールがあるとか。勿論、氷で出来た」
「わ、いいね！　そしたら、ドレスも氷の白と青！　タキシードも、お揃いがいいかな」
　彰尋は、あおいの夢見る横顔をちらと見た。

（あおいさんなら、氷のドレスもよく似合うだろうな）
　そんなことを思う彰尋の隣で、あおいは声を弾ませる。
「あとね、大食堂もあるといいなぁ。美味しい料理が、たくさん出てくるの！」
「……もしかして、あおいさん、お腹空いた？」
「え！　何でわかったの！？」
　あおいの反応に、彰尋はくすりと声を漏らした。
「列車に戻ったら、食堂車に行こうか。あそこの食事も、かなり美味しいと思うし」