せんせいといっしょ：島岡先生編｜リアクション

せんせいといっしょ：島岡先生編

　●　見えない三毛猫　●　

　今日の帰りにはどんな猫とあえるだろうか。
　新顔の猫を見付けられれば狂喜乱舞だし、お馴染みさんの顔を見られるのも嬉しい。
　とにかく猫を見られればそれで幸せというものだ。

　いつものように煮干しを山盛り装備した後木真央は、足取り軽く学校を出て行こうとした……が、その途中、ベンチで目を閉じている島岡先生を見付けた。

「お、雪乃ちゃんセンセーのお昼寝なのだ。これはスクープの予感なのだ」
　新聞部の真央としては、シャッターチャンスは逃せない。
「へっへっへー、雪乃ちゃんセンセーのこういう写真も面白いと思うのだ」
　島岡先生を起こさないようにそっと近づくと、真央はデジカメのシャッターを切った。

「え？」
　その音でぱっと目を開ける島岡先生に、真央はにっと笑って話しかけた。
「雪乃ちゃんセンセー、お疲れなのだ？」
「あ、はい、実は少し疲れてます。なので少しだけ休憩してるんですよ」
「やっぱりお疲れなのだ。ネコ猫ねこ、そういうときには猫が効くのだ！　――ちょっと待つのだ」

　真央はその場から少し離れ、島岡先生の姿が見えないところまで移動した。
　そして。
「にゃにゃにゃがおー！」
　叫んで両手を丸めると、ぽんっと三毛猫が喚び出される。
「このみっちりまっちり感がとっても癒しだと思うのだ」
　抱き上げてすりすりと顔をすりつけてから、真央は三毛猫がおーを抱えて島岡先生のところに戻った。がおーを膝に乗せれば先生の疲れも一気に吹き飛ぶはず。

　そう思ったのだけれど。

「おやぁ？」
　島岡先生のところまで行くより先に、がおーは消えてしまった。
　空虚になった腕に目を落とし、真央はうーんと唸る。
　そして島岡先生のところに戻ると、暫く悩んでから相談を切り出してみた。

「真央ちゃん、とってもとっても猫が好きなのだ。猫鳴館に猫がついてくると思ってたら違って、残念だったのだ。けど、おネコさまと暮らせるようになったのだ」
　真央が猫を飼ったのだと思ったのだろう。島岡先生は、それはよかったですねとほんわり答える。
　けれど真央が言いたいのはそういうことではなくて。

「そのおネコさまは他の人には見えてない気がするのだ。どうしたら良いのだ？」
　真央が何を相談しているのかを捉えかねて、島岡先生は戸惑う。
「えっ？　それはあの……透けてるとか、そういうこと？　それともあの、実際にはいないとか……」
　真央が相談したいのは、ろっこんで召喚するがおーと常時暮らせる方法はないか、ということだったのだけれど、それを島岡先生に理解してもらうのは難しそうだ。
　真央はさっさと相談を引っ込める。
「雪乃ちゃんセンセーはそう言うのだ……分かったのだ。何でもないのだ冗談なのだ、忘れてくれなのだ」
　その様子は、何でもないようにも冗談にも見えなかったけれど、何か事情があるのだと察したのだろう。
「何でもないならいいですけれど、何かあるときにはいつでも相談して下さいね」
　それ以上は追及して来なかったけれど、島岡先生は心配顔だ。
「そうするのだ――あっ！」
　頷いた真央は、校舎側からやってくる生徒に気付き、手を振り回す。

「修ちゃーん」
　真央の視線の先にいたのは、八神修だった。
「修ちゃんは今日は他の部活だったのだ？」
　新聞部の活動に来ていなかったからと真央が尋ねると、修はいやと首を振った。
「今日は図書室で勉強していたんだ」
　真央に答えながら、修は島岡先生と目を合わせて軽く会釈した。

「じゃ、あとは修ちゃんに任せるのだ。さよならなのだ！」
　これ以上島岡先生を心配させないようにと、真央はそそくさと校門へと向かった。

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